旅ノ巻 箱根の先へ 2
一九はもともと、
一九がまだ若く、
「上方でだめなら、文化の中心である江戸ならばどうでしょうか。行ってみる価値はあるはずです!」
一九はそう勇んでやってきたのだが、現実は決して甘くなかった。江戸では、一九の作品を採用してくれる所が一つもなかったのだ。
何件もの芝居小屋を回り、時には
「お願いです! もうここで20件目なんです! どうか私の作品を上演してください!」
一九は土下座をしてまで、一座を率いる
「……仕方ねぇな。そこまで頭を下げられちゃあ、断るのもしのびねぇ」
「ありがとうございます!」
一九の
「悪いな。こっちにも生活ってもんがあるからよ」
一座の座元がそう言って、今後は一九の作品を採用しないと宣言した。つまり、一九は浄瑠璃作家としての道を断たれたといっても過言ではない。しかし、生きていくには、金が必要だ。一九は
だが、一九はとてつもなく、運が悪かった。傘は売れず、引き札描きの仕事もなかなか入ってこない。あげく、隣家の
一文無しで食べ物を買う金も無く、帰る家もない一九は、ついに行き倒れてしまった。
(あぁ。私はこのまま、
「ちょっとあんた。こんな道ばたで寝てたら、荷車に
「う、うぅ?」
一九が
「あら? あんたもしかして、一九じゃない!?」
「……え?」
「やぁね! 忘れたの? あたしよ、あたし。蔦屋重三郎よ!」
「じゅう、ざ……さん?」
ぐぅぅぅ!
人がいない通りに、一九の腹の虫の音が盛大に響き渡る。
「あはははは! なんだいあんた、行き倒れかい! 仕方ないねえ。あんたの面倒、あたしがみてあげるわよ」
そうして、一九は古くから付き合いがあった蔦屋重三郎に、この広い江戸で奇跡的な再会を果たしたのだった。
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