旅ノ巻 箱根の先へ 1
徳川幕府が治める
そんな江戸の中にある町の一角に人気の
「ここ、このような展開ではないほうがいいですね。あぁ、この表現はだめです。情緒がありません」
一九がしている仕事は、文字しか書かれていない物語の内容にあった
しばらくして、ことり、と一九は筆を置く。完成した絵を見て、満足そうにうなずいた。
「うん。こんなものですね」
「ちょっと一九! いつまでやってんのよ!」
「うわっ!」
壊れんばかりの勢いで
一九が恐る恐る振り返ると、部屋の入り口に立っていたのは、歴戦の武士のように
「じゅ、
男の名は
「もう! 一つの作品に、そんな時間をかけるんじゃないよ!」
蔦屋は口元に手をやり、小指を立てながら女言葉で、一九に説教をする。
「いい!? 他にもやることはいっぱいあるんだから、てきぱきとやってちょうだい!」
迫力のある体格と、その言葉
世の中は実に不思議で、うまいこと成り立っているものだ。
「ちょっと一九! 聞いてるの!?」
「す、すみません! 今、描き終えたところです!」
「まったく。あんたのことだ。どうせ本の内容にケチをつけながら、やっていたんだろう?」
図星をつかれ、一九は目をそらした。
蔦屋は深々とため息をつき、頬に手を
「一九。こんなこと言うのはあれだけど、あんたは浄瑠璃じょうるり作家として、やっていけていないんだ。だから、あんまり人様の作品に、とやかく言ってはいけないよ」
「わ、わかっています。でも、つい気になってしまって。ここを直せば、もっと面白い作品になるのにと」
「あんたの悪い
「ごもっともです……」
蔦屋の指摘に、一九はうなだれた。
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