Forest〜森の仲間

森の仲間ー1

「一度見に来るだけでもいいから」



森で出会った谷口准教授にそう言われ、夏休み前に『みなみの森研究会』に顔を出してみた。


研究棟の316号室をノックすると、谷口先生が迎え入れてくれた。



 研究室の中には、資料やノートパソコンが無造作に乗せられている長テーブルがいくつか並べてあり、壁には大きなキャビネットと、実験機器を数台載せてある机がある。

資料や本の入った段ボール箱が床に置かれており、乱雑な印象だ。


そして、何より目を引くのは、木・植物・きのこ・昆虫・動物など壁一面に張られた森の写真だ。




 研究室には、ふたりの部員がいた。

谷口先生が紹介してくれた。


「あー!あなたの事知ってます。

相当目立ってますから」


と、男の子の部員が言った。


その男の子は、22歳4年生の駒沢。

黒縁の眼鏡をかけた素朴な感じの青年だ。

菌類の研究をしているという。

来年大学院を受けるそうだ。


「菌類は、まだまだ分かっていないことが多く、新種も多い。

一生研究しても足りないくらいです」


もう一人は、25歳の大学院生の沢口。

黒髪を一つに束ねた気の強そうな女の子だ。


「私は、うんちが好きです。

うんちの中には情報が詰まっているんです」


これにはいたく同感!



そんなうんち好きを公言する沢口だが、森の中から採取したうんちの中には病原菌も存在する為、大学内には持ち込み禁止。

そんな沢口の研究のため、大学側が森と大学の境目にプレハブ小屋の研究室を用意してくれたという有望株らしい。



ふたり共、相当の変人っぷりだ。

気に入った。



「苅原さんは、何の研究をするんですか?」


えっ!

私、そんな事まで考えてなかった。

そこに、谷口先生が、


「ほら、あのノート見せてみて」


そう言って、私がいつも森について書き留めているノートを出すように促す。

そのノートを3人で熱心に見ている。



「北の森っていうのは、どこですか?」


「私んちの近くの、北川神社から森の公園までの森の事。

南の森と原生林でつながっている」


「違いを研究しているということですか?」


「私、研究テーマなんて考えた事もない。

とりあえず、今は勉強がしたいだけだ」


ぎこちない私の話し方に、少し戸惑っているふたり。

そこに、谷口先生がまた助け舟を出してくれる。


「森の全てを知りたいのよね?」


「もしかして、先生が前に言ってた、面白い子が入学してくるわよっていってた人?」


うんち好きの沢口が言った。


「そうよ。

森の全てが知りたいって、私に不敵な笑みを浮かべてきた社会人入学生」


「総括ですか?」


菌類好きの駒沢が言った。


「谷口先生は、この南の森の研究者の総括の立場ですが、森の全てとなると、相当の勉強と研究が必要ですね。

日本には、大きな意味での総括の立場で森を研究をしている研究者は、H大の佐々木教授含めて数人だけです」


「あなた、相当の変人ね!」


うんち好きの沢口に言われた。


「まだ、そこまでは考えていないと言っただろう」


「変わってるのは見た目だけじゃなさそうですね」


と、まじまじと見てくるふたり。



 変人部員ふたりとのそんなやり取りの後、谷口先生が部室のキャビネットやダンボール箱の資料を見せてくれた。

その中には、図書館では見られない物が多くある。


「この研究会に入ったら、この資料も読めるのか?」


「もちろんよ」


心が動いた。

その様子に、谷口先生はしてやったりという顔をしている。



私は、森で出会った妖精谷口准教授にしてやられていた。



ーKerlyー



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