最初の呪縛ー5
『魂の飛び出るような音楽』
とてつもなく俺の胸に響いた。
しかし、レイちゃんの場合、そこには爆音という言葉が付く。
演りたいジャンルは同じだし、爆音も嫌いじゃない。
でも、それぞれ微妙に好みは違う。
レイちゃん、この男にはそれがわからないのか?
よく喧嘩もした。
ある日、俺が今回はバラード曲を演りたいと言って引かなかった。
「爆音じゃなくても、俺は魂が出せる」
レイちゃんは激怒し、激しい言い争いになった。
俺たちが揉めているというのに、知らんぷりしてカーリーは、ベースを置いてどこかに行ってしまった。
しばらくして、レポート用紙を持って戻ってきた。
そこには、レイちゃんの好きなバンドのバラード曲の事が書かれてあった。
練習場においてあった音楽雑誌の記事が引用されていた。
『このバラード曲は、控えめな演奏ではあるが、手抜きのないテクニック満載の演奏である事も評価されている』
『このバラード曲が入っているアルバムは、彼らの中でもダントツのセールスをあげている』
『そんなバラード曲を作ってみてはどうでしょう』
という提案で締めくくられている。
レイちゃんはそのレポートを読んで、しばらくは機嫌が悪い。
でも、明らかに、この時から少しだけ俺の意見を取り入れてくれるようにもなった。
その頃から、俺たちは、レイちゃんのパパ達同様、ホワイトボードに演りたい曲を書き出す様になった。
演りたい曲で揉めることも多かったが、誰がボーカルするかでもよく揉めた。
かったるそうにベースを演っているカーリーに歌を歌わせることが多くなった。
3人でやりだした頃は女の子の声だった。
音程も外さず、それなりに歌は上手かった。
「女を出すな!」
「魂を出せ!」
「魂のシャウトだ!」
もともと負けず嫌いだったのだろう。
カーリーはむきになってシャウトする。
あっという間にカーリーの喉は潰れた。
俺やレイちゃんの歌が増える。
俺たちも、あっという間に喉が潰れた。
それでも、誰かが歌を歌わないといけない。
練習開始にまず、それぞれ声が出るかシャウトしてみる。
「あーーーーーー」
「感情がこもってない」
「もっと魂を出せ!」
そうして生まれたのが、『Scream Of No Name』だ。
ライブのオープニングを飾る曲になった。
カーリーの普段溜め込んでいる魂のシャウトは、格別インパクトを残す。
悔しいが、俺たちは認めざるを得なかった。
文字通り、いつも無表情で無口なカーリーはその瞬間、魂を解放していたに違いない。
高校卒業後の進路の話になった時、俺もレイちゃんも音楽で飯を食っていきたいと言った。
でも、カーリーにはそれは難しいのはわかっていた。
「これ位のベースができる人はいっぱいいると思うので、私の事は跡形もなく忘れて下さい」
そう言った。
その時、俺とレイちゃんが返したその言葉は、カーリーの呪縛のひとつになっているのかもしれない。
「ベース位ならそうかもしれないが、その感性はお前だけの物で、すでに俺たちにはなくてはならない物なんだ」
ーShowー
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