足りない音色ー19
とにかく、一番思い出したくもない頃だ。
ベイビーブラザーの海が近くにいた事すら歯止めにならなかった、酷い兄貴だ。
「でも、凄いなと思ったのは、そんな中でもいい曲作ってたよね!
お蔵入りになったみたいだけど。
あの頃の曲、また聴きたいな」
その頃の曲は、まだ聴けば辛くなる。
落ち着きを取り戻して、新しい道に進み出しているカーリーにも、まだ聴かせたくはない。
ショウも苦い顔をしている。
「俺たちは、過去の曲も今までは振り返ったこともなかった。
最近になって、小さなライブの為に聴き返すようになった。
俺たちは、他人の批評とかも聞かないようにしていた。
音楽評論家が揃ってるから聞いてやるけど、俺たちの音楽って何よ?」
海が、俺の顔をマジマジと見つめた。
他の3人は、しばらく沈黙の後一斉に口を開きだした。
「爆音」
「変速、転調、不協和音」
「俺達クラッシック育ちには、刺激的っていうか、いけないことしてる感が小気味良いっていうか」
「ストレート過ぎる歌詞もあれば、不可解な歌詞もある」
「典型的なスリーピースバンドな曲もあれば、音の種類の豊富さを追求した曲もある」
「ある意味オールラウンダー」
矢継ぎ早に、次から次に出てくる。
「でも、一本筋が通ってる。
それは、いつも最大限の溢れる程の強い感情。
つまり、激情」
「時には情熱、時には混乱、時には痛々しさ、時には怒り」
「その差が激しすぎて、ファンの間でも、好きな曲は全く違う」
「賛否があるのも、そのせいでしょう」
「僕は、初めて聴いたアルバムは5で、その後1から聴き直しました。
技術的にも、人間的にも成長が見られて、ついつい情が移っちゃいます」
「18歳の時に出したScream Of No Nameー1は、やはり十代の反抗的だったり不満だったりが、大人顔負けのドラムンベースとギターのテクで、歌詞でも音でも表現されている。
初々しさもある」
「20歳の時に出した2から、もうすでにScream Of No Name独特の世界観が音楽にも出始めている。
一筋縄ではいかないメロディーラインとか多彩なギターの音色とか。
ここからすでに、突っ走っている感が半端ない」
「21歳の時に出した3に関して言えば、
この頃は、ポジティブにも感じる躍動感のある曲も多くて、僕は好きです。
打ち込みが多くなってきたのも、この頃でしょうかね」
「22歳の時の4は、もう変態としか言いようが無いですよね。
レイさんのドラムの高速変速ぶりとか、ショウさんのギターテクとか。
爆音、常識破りな歌詞、怒り炸裂な音が、これぞScream Of No Nameっていう感じのアルバムで、俺は好きです」
「そして、1年空いて24歳の頃に出したScream Of No NameーE。
これは、エレクトロニックロック好きにはたまらない一品ですよね。
ダンサブルな曲もあり、カーリーさん色の強い不思議系サウンドが全開の曲もありで、根強い人気です」
「そして5。
技術的にも洗練された感を出しながら、今までのあれこれが詰め込まれたっていうか。
感情の起伏が激しい。
集大成とか言われてますけど、これで終わりにしないで下さいよ。
次はどう出るか、楽しみにしてるんですから」
「うっせー」
「生意気言ってんじゃねーよ」
「なんだよ!
兄貴が聞きたいって言ったんだろう?
でも、なに?
そういう批評が聞きたいなんて、どういう心境の変化?」
ーRayー
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