足りない音色ー18

「ただいま」


 海をはじめ皆、今風でお洒落なスマートさを醸し出している。


「本物だー!本物がいるー」


髪の毛クシャクシャの奴が言った。


「大ファンなんです。

最後のツアーのフランスライブ観に行きました」


そう言って、握手を求めてきた。


「海、まずは紹介しろよ」


髪の毛くしゃくしゃ長めの男は佐久。

短髪ツーブロックでメガネの磯貝。

金髪センターの北川。


「大学の友達」


握手を求められた。


「みんな音楽やってるのか?」


「そうですね!

でも、迷子中です」


「さあ、まずは飯だ!」


初めて大学の友達を連れて帰ってきた海に、大喜びのママは、次から次に料理や飲み物を出す。



佐久が、俺たちに質問を浴びせかけてくる。

音楽的な内容がほとんどだ。

驚いたことに、俺たちのことをよく知っている。


「僕は、2と3が好きですね。

古き良き時代のパンク感やオルタナティブ感があって」


磯貝が言う。


「それを言うなら、それらは全てのアルバム共通だろ。

俺は、4の不思議系のエレクトリカルな曲も好きです」


と、北川が言う。


「5に関して言えば、アンダーグラウンド感と、感情を押し殺したようなテクニック重視が半々っていう興味深いアルバムですよね。

でも、不思議なことにそれが、原点回帰しながらも洗練されてきたという逸品ですよね」


佐久が、鋭く突っ込んでくる。


たまらず、


「お前らは評論家か!」



「このアルバムを作り始めた頃、俺はイギリスに留学してて、兄貴達のスタジオによく顔出してたんだよ。


この頃の兄貴たちは、とにかく酷かったよな?」


 俺は、海が言う『兄貴』に違和感がある。

俺が高校卒業して家を出た頃、家を出たと言っても、家を追い出されたカーリーが住まわせてもらっていたTAKAさんのスタジオに、勝手に住み着いたんだが。

その時、海はまだ中学生で、俺のことを『にいに』と呼んでいた。


それと、あの頃は可愛かった海のその生意気な口調にも腹が立つ。



「興味深いな」


と言って、海の話の続きを待つ3人。


「とにかく、ずっと3人で小突き合いながら音楽音楽。

その他の時間といえば、酒、喧嘩、男に女。


ショウさんは、さわやか系イケメンだったのに、いつもイライラしてて目付きも悪くなって、昔の面影なし。

カーリー姐さんは、情緒不安定で奇行もあって怖いくらい。

兄貴に至っては、喧嘩で脇腹刺されて救急搬送。


あそこにいたら俺も気が狂うと思って、親父に相談した。

親父の薦めで、類兄貴の留学先のアメリカに行った」


「言うな!

ママには言ってないんだから」


目に涙を浮かべながら、ママが言った。


「知ってるわよ。

パパに詰め寄って全部吐かせたから」



ーRayー



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