足りない音色ー20

「どういう心境の変化?」


 ほんのついさっきまで、俺たちは、そのScream Of No Nameらしさの呪縛を解放しようと話していた。

それぞれの感性や思考を追求することを話していた。


何なんだ、こいつらは?

何のためにここに来た?



「俺たちのことはいいんだよ。

今は充電中なんだよ」


「それより、お前ら夏休みにあちこち旅行でもしてるのか?」


「海君、お兄さんに話してないのか?」


「あー、まだ。

これから言うつもりではあった」


海は、なんだか歯切れが悪い。


「これからって、もう明後日だよ」


「なんだ?

海、ちゃんと言ってみろ!」


「実はさ、俺達、明後日ぐっさんのライブハウスでライブやるんだけど、兄貴たちとセッションしたいかなとか思って」


「なんだ、お前らバンドやってるのか?」


「まあ、バンドって言えばバンドではあるんだけど」


海は、なぜこんなにも歯切れが悪いんだ。


「俺達はクラシックで育ってきて、海外留学とかもして、それぞれが音楽で飯食うこと夢見てたんですけど、もう10代の頃から挫折を経験してたんです。

そんな時に、海君と大学で出会って、ロック演らないかって言われて。

今はまだお試し中です」


「クラシックとロックの融合」


「でも、楽しいです」


「俺達、大学の出来たて弱小オーケストラで出会ったんです」



オーケストラ!



「おい!

そこんところ詳しく聞かせろ!」



 佐久は、有名なバイオリニストの母を持ち、幼少の頃からバイオリンを演っていたが、どこに行っても母親の名前が付いて来ることに嫌気が差していたと言う。

中学卒業後ドイツの音楽学校に留学し、その後ヨーロッパを転々として音楽活動をしていたという。

日本に戻ってきて、海と同じ大学に入り、音楽作成を学んでいる。


「バイオリンは俺の腕の一部なので、手放せなくて」


 磯貝は、声楽家でオペラにも出ている父と、音楽教師で地元のオーケストラにも所属している母親の音楽一家で育った。

母から教えてもらっていたクラリネットだけに飽き足らず、今では他の木管楽器にも精通している。

結局手を広げすぎて、どの木管楽器でも極めることはできなかったという。


「高校の吹奏楽部でサックスを演るようになり、アメリカに留学している時にジャズに出会って、ジャズバンドもやってます」



 北川は、二人とは違って音楽一家の出ではない。

たまたまお姉さんが始めたバイオリンにはまり、幼稚園の頃から教室に通い出しメキメキと上達し、地元では有名だったらしい。

しかし、小学校の時に出たコンテストで、その時優勝した佐久に出会い挫折し、バイオリンを諦めてチェロに変更したという。


「当時、チェロでポップスを演ってる人達のライブを見て、チェロかっこいいって思ったんっす」



バイオリン、クラリネット、チェロ!



カーリーの曲で重要な局面で出てくる楽器だ。

こいつらは、この為に遣わされてきたのか?


すると、ショウがこう言った。


「お前ら、飛んで火に入るなんちゃらだな!」


「夏の虫だろう。

でも、少しニュアンスが違う。


暗闇になんちゃら?

いや、地獄に仏だよ」



ーRayー

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