足りない音色ー12

 カーリーには、音楽に、俺たちが3人でいることに、並々ならない執着がある。


なぜなら、それは、カーリーが死に引きずり込まれず、生きていく為の原動力だったからだ。


あの頃、よく言っていたのは、


「音楽に出会わなければ、とっくに死んでいた」



でも、今、お前には、失ったと思っていた家族が近くにいて、子供達がいて、やりたかった勉強をして、そこに友達すらいるだろう?

そしてなにより 最大の理解者であるルーがいるだろう?



俺たちらしい、Scream Of No Nameらしい、そんな呪縛は、


カーリーにとっては、逆に心地よいものだったのかもしれない。

いや、それ以上のものだったに違いない。



この時カーリーは、俺たちが離れてしまうんじゃないかという不安に襲われ始めていたのだろう。


この気持ちが、この日カーリーに二の足を踏ませてしまった。



 俺は、そんなカーリーの不安な気持ちを察して、コントロールルームのパソコンを開いて、ある曲を探した。

親父がDVDに入れて取っておいてくれた、カーリーが初めて作ってきた曲だ。


「覚えてるか?この曲」


Amから始まる切ないピアノの弾き語りの曲だ。

この頃、カーリーはまだ喉が潰れていなかったので、女の子の声だ。

でも、恥ずかしさや照れのせいか、感情はこもっていない。


カーリーは、恥ずかしそうに下を向いて、でも聴き入っている。


「嫌だなー!恥ずかしいよ」


ショウも覚えていたんだろう。

懐かしそうに微笑んだ。


「あの頃俺たちは、この曲をロックじゃないと言ってお蔵入りにさせてしまった。

でも、今はこの曲を受け入れられるし、愛おしいとさえ思える」


「カーリー、

呪縛を解いて進んでみるっていうことは、こういうことなんだよ」



しばらく下を向いて黙り込んでいたカーリーが、こう言った。


「私たちバラバラになっちゃうの?

もう前みたいにはなれないの?」


例の甘えたような猫なで声の、誰かを引き止めたい時の声だ。

そして、あの頃壊れかけていたカーリーが、俺たちのベッドに潜り込んでくる時の声だ。


カーリーは、俺たちが離れてしまうことを恐れている。

でも、俺には、どこから湧いてくるのかわからないが、そうならない確信がある。


俺は、カーリーの顔を両手ではさみ額と額をつけて、こう言った。


「いつも言ってるだろう!

俺たちは、お前を見捨てない。

一生面倒見てやるって!」



 その時、半地下のレコーディングスタジオの高窓を叩く音がした。

一階のリビングから様子が見えるように設置された窓だ。


ルーが上から見下ろしている。


ショウが手招きした。



その時、カーリーが不意にこう言った。


「じゃあ、私の味方になってよ」


その時はまだ、俺たちはカーリーの真意に気付いていなかった。



ーRayー



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