足りない音色ー11

「俺たちらしいって何だったんだ?」



「バリバリのロック」


「爆音」


「テクニック」


「レイちゃんの高速変速ドラム」


「ショウのギターの多彩な音色」


「カーリーの辛辣な歌詞」


「3人で5人分の音」



 高校生になったばかりの頃、俺たちは、ツインギターでキーボードもいればと考えていた。

何度かいけそうな奴を誘ってみたが、どいつもこいつも長続きしなかった。

結局、俺たちが出した結論は、3人で5人分の音を出すというものだった。

曲を作り上げるまではそれで良かったが、ライブにおろす時に苦労することになった。

3人で頭を突き合わせて、考え、分担してやってきた。

今もだ。



「俺たちは、いつも3人で曲を作って、ライブで5人分を分担してやってきた。

時には喧嘩し、誰かが妥協するしかない時もあった。

3人で作って3人で演ることが、俺たちらしい、俺たちだけのっていう、たぶん、そこが根底だったと思う」


「でも、今はそれぞれがひとりで作ってる。

今の私たちは、もう違うってこと?」


「俺たちは8年も一緒に暮らして、毎日一緒に音楽作っていた。

でも、今は違う。

お互いそれぞれの事情を抱えて、それぞれのもう一つがある」


「2年前3人とも真っ白になっただろう。

今はインプットの時だって、前に話しただろう?

それぞれが、それぞれの物をインプットして、少しずつ溜まったものをアウトプットしているのかもしれない」


「それっていいことなの?」


カーリーは不安気だ。


「カーリー、お前はどんな想いで曲を作っていた?」


「どういうって?」


「俺たちの求めている物をって考えていたんじゃないか?」


カーリーは下を向いてしまった。


「そうだったけど。

どうしても衝動を抑えられない時はお披露目してたじゃん。

そして、わがまま言ったり泣いたりして、採用してもらってたじゃない」



「ある意味、俺たちもそうだったのかもしれない。

俺たちはこうでないといけないっていう想いに、縛られていたのかもしれない」


ショウがそう言った。


「いつの間にか、自分たちで作り上げた呪縛に囚われていたんじゃないか?」


「呪縛を解いてみる時期なのかもしれない」


「呪縛って?」


「俺たちらしいってことにこだわり過ぎてたんじゃないかってことだよ」


「それのどこがいけないの?」


「いけないってわけじゃない。

むしろ良い方向に進むかもしれない」


「もうすでに、そうなんじゃないか?

お互いがそれぞれの想いで曲を作っている。

カーリー、お前だってそうだろう?

そして、それをお互い認め合っているだろう?」



「呪縛がなくなったら、私たちはどうなるの?

Scream Of No Nameじゃなくなるの?」



ーRayー


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