足りない音色ー9
「睨まれちゃったわよ」
底抜けに明るく笑う空の母親。
「髪の毛は肩より長いロン毛で、腕にはタトゥーが見え隠れしていて、目付きが鋭くて、このパパどんな暮らしているのかしらって思ったの。
その辺の若い子とは雰囲気がまるで違っていて、ちょっと驚いたわ。
その後で、一緒に来ていた義理のお母さんと話して、色々事情を聞いたわ。
義理のお母さんが言ってたわ。
『あの子達と一緒にいると、娘とも一緒にいられるの』って。
そう言いながら、子供3人連れてるみたいに面倒見てたわ」
「ショウさんって、そんなだったの?
まあ、初めて会った時僕も睨まれたけどね」
「でも、よかった!
顔が、あの頃と全く違って、穏やかになってる」
そんな話をしていたら、花が俺にタトゥーを見せてと言ってきた。
僕がタトゥーを見せると、
「かっこいい!私も入れたい」
と言う花。
空がすかさず、こう言った。
「花ちゃん、どこに向かってるの?」
笑いが起こり、和やかな雰囲気が流れる。
日本で英語の講師をしているアメリカ人男性を中心に会話が広がり、
視覚障害の男の子と聴覚障害の女の子が、スマホのアプリで会話する。
その後ろに、見守るように親達やボランティア達がいる。
唄や音が大きくなって親元から離れても、見守ってくれる人がいて、受け入れてくれる人がいて、愛の溢れる環境にいてほしいと願った。
俺たちだって、そうだったじゃないか!
ひとり息子が仕事もせずに夢を追いかける事を、応援すらしてくれていた両親。
8年間も音楽だけをやれる環境に置いてくれたボスの八木さん。
どんなにいっぱいいっぱいになっても、暴れても、壊れても、見捨てなかった友人達。
なのに、俺たちはイキって尖って、色んなことを棒に振ってもきた。
俺たちらしさの為に。
時には飯も食わず寝る間も惜しんで、3人で納得いくまで音楽を作り上げてきた。
俺たちらしい音楽の為に。
それは、ある意味、自分たちで作り上げてきた呪縛の為にだったんじゃないだろうか?
今の俺は、その呪縛から解き放たれないと、潰れてしまうかもしれない。
レイちゃんやカーリーは、どう思っているんだろう?
今は、それぞれがひとりで音楽に向き合っている。
カーリーの呼び出しは、ある意味分岐点になるかもしれない。
アイツが本音を語る時は怖い。
アイツが溜め込んできた本音を話す時は、友情とか愛とか思いやりとか信頼関係すら壊しかねない。
練習場に着くと、ルーがベビーシッターの女の子と話していた。
階段を下りてレコーディングスタジオのコントロールルームに入ると、すでにふたりは来ていた。
「ねえねえ」
カーリーは意外にも軽い調子で話しかけてきた。
ーShowー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます