足りない音色ー8

 花のシェアハウスは2階建てで、当然のようにオールバリアフリー。

2階建てにも関わらずエレベーターも付いている。

元々は高齢者向けのグループホームだった所を改築したらしい。


部屋は、車椅子でも出入りできる大きな部屋もあれば、ごく普通の部屋もあり、全部で10室。

車椅子利用者2名、視覚障害者、聴覚障害者、ダウン症、健常者2名、外国人合わせて現在8人で生活している。

管理人夫妻が常駐しており、それぞれのボランティアスタッフが出入りしている。

それぞれの親も心配して、いつも誰かが訪ねてきているという。


「ここは、障害者と健常者が生活を共にすることができるんだっていうコンセプトで作ったの」


「あなたが作ったの?」


「そうね!

でも花が言い出したの。

ここで暮らすようになってから、花は自分で考えて、自分の人生を謳歌してるみたい。

そりゃあ、思い通りにいかなくて落ち込んだりもあるけれど」


空と花の母親が、俺の隣に座ってこう言った。



「俺とは一度しか会ってないのに覚えててくれたのは、なぜ?」


「そりゃあ、イケメンだもの」


と言って、あははと笑う明るい人だ。

あの時も、そうだった。


 俺が子供達と日本に帰ってきて、日本で病院探しに苦戦し現実を突きつけられた怒り、さらには、感染症や肺炎で何度も入院を繰り返す唄への不安などで、精神的になかなか前に進めない時期だった。


そんな時、歌のリハビリで出会ったママ達から誘われた。

『四肢麻痺の会つばさ』主催のイベントで、乳幼児向けのキャラクターのショーだった。

子供達が1歳になる少し前だった。


ショーが始まると、真澄のママに抱かれた音は釘付けになった。

しかし、唄がぐずり出した。

そんな唄をあやす為に、体育館の後ろに移動した。


その時に声をかけてくれたのが、『四肢麻痺の会つばさ』の会長だった空の母親だった。

色々話しかけてくれて、唄をあやしてもくれた。


その頃負の感情もあり、さらには、まだロンドンでの尖っていた癖が残っていたのか、態度も悪かったに違いない。


「好き嫌いは誰にもあるもの。

お気に召さなかっただけよねー」


「パパがそんな顔してたら、子供にも伝わっちゃうわよ。

さあ、笑って!」


「心配ないわよ!

みんな付いてるから」


脳天気なその発言に、俺は、


「どうすれば、手放しで笑えるようになるわけ?

この子達も俺達も」


余程機嫌が悪かったのか、その時そんな言葉が出てきた自分に驚いたのを覚えている。


すると、会長はこう言った。


「口角を上げるだけよ。

そうすれば、幸福ホルモンが出るのよ、あはは」



ーShowー






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