足りない音色ー7

 空が言うディープな場所で出会い、酔い潰れて練習場で同衾してから、空は、加那を押し退ける勢いで割って入ってくる。

加那が、急接近してきた空を不審がっているが、あの事は言っていない。


「ふたりだけの秘密っていいね!妖しい響き」


「俺には、別に秘密にしていることはないんだからな」


「えー!そうなの?

ディープなバーも、どっちもOKも、僕と一つのベッドで一緒に寝たことも?」


「一緒に寝たって言っても、何かあったわけでもないし」


「余裕って感じで嫌だなー」



 そんな空から、ある日お誘いがあった。


「3番目のお姉ちゃんのシェアハウスでBBQやるから来てくれって誘われてるけど、ショウさんも来てみる?

お姉ちゃんに会いたいって言ってたじゃない」



その週末、車で空を迎えに行き、空のお姉さんの住むグループホームもといシェアハウスにお邪魔した。


俺達が中庭に向かうと、すでに準備が整い、そこには大勢の人がいた。


ひかり姉ちゃんも来てたの?」


「お母さんも来てるよ」


「専門学校の友達のショウさん。

これは一番上のお姉ちゃん。

小学校の先生」


「いつも、空がお世話になっております」


礼儀正しく優しそうな笑顔で挨拶してきた空のお姉さんは、飾り気のない小柄な人だ。


 中庭にはいくつかテーブルが設置され、10人位がすでに席に着いている。

車椅子が2台こちらに背を向けている。

そのうちの1台の車椅子の女性は、髪の毛を赤く染めている。


「えー!はなちゃん、何その色!

髪染めたの?」


「遅いぞー!

この色いいでしょう?」


「花ちゃんのご要望に応えて、友達連れてきたよ。

同じクラスの友達っていうか、結構年上だけどね。

川瀬 翔さん」


「川瀬です。

よろしくお願いします」


ボソッとぎこちなく挨拶すると、


「なんだかお堅いなー」


と、みんな気さくな雰囲気だ。


空のお姉さんの花は、顔をクシャッとさせながら、


「でも、イケメン」


そう言って、みんなから笑いを取る。


 花の隣に座り、空を交えて花と少しお喋りする。

花は、絞り出すような声でよく喋り、明るく、時には毒も吐く。

お肉は噛むだけ噛むと、空が差し出した紙コップにぺっと出す。

嚥下にも多少障害があるからだろう。


そこに、


「追加のお肉よ」


と言って、女性が現れた。


「うちの母です」


そう紹介してくれた女性に、俺は見覚えがある。


「あら!もしかしてあの時の?」


「その節は……」


そう言って、気まずく挨拶した。


「えっ!もうすでに知り合いだった?」



ーShowー





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る