足りない音色ー6

 ショウはどうだ?


俺たちのアルバムには、2曲のみバラード曲を入れることにしていた。

そのほとんどをショウが書いていた。


3人で3本のアコスティックギターのみでのバラード曲もある。


あの頃まだショウの歌声は、少し高音も出る綺麗な声だった。

いつの間にか喉が潰れて、ガスガスのハスキーボイスになってしまったが。


日本に帰ってきてからは、爆音盛り盛りの曲は今は作れないと宣言してきた。


 ショウは最近まで、ひとりでアコギで曲を作っていた。

漏れて聞こえてくるその音は、切ないバラード曲だ。

でも、途中で作るのをやめてしまった。

心の整理が難しいのだろう。

そう思って、知らんぷりをしている。

今は、また新しい曲を作り始めている。



 カーリーは、ルーが見せてくれた映画の絵コンテやCGでのワンシーンの曲を、ひとりで作っている。

壮大なシーンだ。

でも、カーリーには、すでに大まかな曲の流れはできているという。


その曲に、何度かドラムを入れてくれと言われレコーディングした。

ショウもギターを弾かされていた。


革命が起こる壮大なシーンに流れる壮大な曲だ。

シンセを駆使して音を作り幾重にも重ねていく。

俺達にもその曲を聴かせてくれたが、すでに口出しできないほどの仕上がりだった。

でも、カーリーは頭を抱えている。


 スタジオが使えなくて暇を持て余して作っていた、エレクトロニック系テクノ系の曲を集めて作ったアルバム『Scream Of No NameーE』。

このほとんどの曲は、カーリーがいなければできなかった。

俺たちの仲間内では群を抜いている。



俺には、カーリーが頭を抱える、映画のワンシーンの壮大な曲の行きたいその先が、なんとなくわかっていた。




 そして、俺は?


プロボクサーの大崎 龍也に出会って、入場曲を提供し、試合を観に行ってから、俺と龍也の交流は続いていた。


試合後に、メッセージを添えたシャンパンをこっそりスタッフに渡して帰った後、お礼にと食事に誘われた。

もちろん、ぐっさんと哲治さんも一緒だ。

子供の頃の話やヤンチャ伝説やストイック伝説で、盛り上がった。


そんななか龍也から、オリジナルの入場曲を作ってくれないかと言われた。

ふたりでイメージを話しているうちに、俺はやる気になってきた。


そして、俺は龍也に、


「試合後のインタビューで言ってた龍也の言葉が忘れられなくて、今それで一曲作ってる。

入場曲とはイメージが合わなかったら、断っていい」


「できたら、是非聴かせてほしい」


 俺もまた、ひとりで曲を作っている。

俺には珍しく、歌詞先行だった。

今までは、怒りや情熱などの感情の赴くまま、まず曲を作っていた。

それに慣れてしまった俺は、少し戸惑っている。

でも、それは、ちょっと胸が躍る戸惑いだ。



俺達は、いつの間にか自らかけてしまった呪縛から、今逃れようとしているのかもしれない。


俺達は、いつからこの呪縛に縛られていたんだろう?



そんななか、弟の海が友達数人を連れて帰って来た。



ーRayー







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