足りない音色ー5

 レンとしゅーとは、ロック色の強い曲を作る。

もともと、海と演っていたバンドは、男臭いロックバンドだったらしい。

ほとんどの曲を海が作っていた。

レンとしゅーとが曲を作るようになってから、曲調が変わった。


大学に入って、とある音楽サークルに入り、ドラマーを募集したらピボが来た。

そして、ソロ活動していた独特の歌唱力を持ったみゆに出会った。

みゆを誘った。


「その時は、私のバックバンドくらいにしか思ってなかった」


ところが、最初やろうとふたりが持ってきた曲は、しゅーとがメインボーカルの曲で、みゆはラップをやれと言われた。


「最初はムカついたけど、良い曲だった」


その後、レンはしゅーとと曲を作り、みゆはみゆで曲を作っていた。

ふたつのバンドが混在しているようなものだ。

そこが、まずギャップを作り出している。


レンは、デビューという言葉がチラついて、バンドの方向性に迷っている。

みゆを前面に押し出したバンドにするか、

みゆはあくまでバンドのメンバーのひとりというスタンスでいくのか。


その点、しゅーとには迷いはない。

ダブルボーカルで、みゆはあくまでもメンバーのひとりだ。


みゆは?

バンド結成当初『私のバックバンド』程度しか思っていなかったみゆ。

でも、意外な一言だった。


「私の書いた曲をロックにして」


ホワンの4人は、まだ決めかねていた。

レコーディングを始めてから、さらに思案に暮れている。


俺は口出しはしない。

4人で話し合って決めてくれ!



俺たちがそうであったように。



 俺達には、音楽性や方向性の違いはなかった。

常に3人で同じ方向を向いていた。

もちろん曲作りに関して、掴み合いの喧嘩になったことすらあった。

それでも、妥協点を見つけてはうまくやっていた。

それがScream Of No Nameだと思っていた。



でも、本当にそうだったのか?


今は、それぞれが別々にやっている。


今の俺たちはどうなんだ?



 カーリーを加えてバンドを組み始めた頃、俺とショウがふたりで曲を作っていた。

カーリーは上達速度は早いものの、幼少期からドラムやギターを演っていた俺たちのレベルには、まだまだ到達していなかった。

とりあえず、カーリーは俺たちに言われた通りに練習し演奏していた。

時には、俺たちの期待以上の事をやってのけて、俺たちを焦らせた。


そんなカーリーが初めて作ってきた曲は、クラシックピアノを習っていたせいか、ピアノ中心の美しい旋律の曲だった。

曲調も歌詞も暗かったが。


俺たちは、ロックっぽくないと言って却下した。

それから、カーリーは俺たちの求めている音楽を作るようになった。


前の練習場を壊す際に整理していたら、その曲の音源が出てきた。

親父は、それを捨てずにずっと取っていたんだ。


今の俺には、その曲は愛おしくさえ思える。



ーRayー


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