足りない音色ー4
ホワンのアルバム作りは、今勢いを失っている。
いや、翳りすら見えている。
ホワンとして活動してから、まだ3年だ。
弟の海が入っていた前身バンドでの曲を含めても、まだオリジナル曲は5曲しかない。
大学のイベントや、ぐっさんのライブハウスで行われる対バンイベントに出るのみだ。
「オリジナル曲を増やして、ワンマンライブやりたくないのか?」
「デビューとか考えてないのか?」
とか言って、煽ったのは確かに俺たちだ。
でも、そのうちの2曲が、俺たちの目に止まった。
1曲は、重厚なロック色の曲で、前身バンドからのオリジナル曲だ。
海とギターのレンが作った曲だ。
歪みまくるギター、ゆっくりだが重低音のリズム隊、そして、そんな重い音と相反するホワンホワンとしたキーボードのリフ。
メインボーカルはベースのしゅーとだが、途中入れてあるみゆのラップが、見た目の印象と違うやや低音の尖った感じで、この曲を際立てる。
もう1曲は、カーリーの言うキランキランのキーボードがメインの曲だ。
ギターもベースもドラムも控えめで、可愛く歌い上げるみゆ。
でも、歌詞は、怖くなるほどの女の子の恋のバトルの曲だ。
ホワンの特徴は、このギャップだ。
ロック色強い重い曲と、エレクトロニックな女の子色が出る曲のギャップ。
そして、対照的なしゅーととみゆのダブルボーカルでもいける。
曲も作ることもできるみゆが、ある意味カギを握っているのかもしれない。
下手すると、男3人はみゆに食われてしまう可能性もある。
日本の音楽事情を全く知らない俺は、そこのところは一切口出ししない。
音を作る技術とかレコーディングの技術のみを教える程度だ。
ホワンは今デビューという言葉に惑わされ、自分たちの音楽を見失っている。
そして、それぞれの音楽性の違いが浮き彫りになってきている。
それに伴いバンドの方向性にも、それぞれの想いが変化してきている。
ドラムのピボは、いくつものバンドを転々としていた。
自分をお助けドラマーだと思っている。
でも、いくつものタイプの違うバンドでドラムを叩いていたピボは、技術力も適応能力も高い。
「デビューなんて考えてもいなかったっす。
俺はついていくしかないっす」
でも、この軽い感じに、焦りを感じている他の3人はイライラもしている。
正反対なのは、みゆだ。
この機会を逃したくない。
みゆは高校生の頃、同じ高校のバンドに入りながら、ソロ活動もしていた。
俺たちが帰国して同じライブに出るようになってから、Scream Of No Nameを知り、今カーリーにハマっている。
「言葉少ない歌詞で、聴く人によって解釈が違うのに、その曲の伝えたい部分はガツンと来る。
カーリー姐さんみたいなソングライターになりたい」
やめておけ!
アイツのその才能は、壊れているからこその物だ。
どれだけ、頭悪いんじゃないかとか変人だとか言われて、カーリーが泣いていたことか。
ーRayー
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