足りない音色ー3

 ルーの映画は、どんどん進んでいる。


私に会いに来てくれた6年前から、ジェームズと3人で事細かに話し合っていた。

さらに、ルーがロンドンの大学で出会った友人と、映画作成を学びながら、空想だった物をより現実に近付けてくれた。

言わば、すでに構想6年だ。


近未来の物語なので、その背景にはCGも使用される。

私は、いつの間にか映画関係者に名を連ねられており、その内容を前もって見せてもらえたりする。


 そのなかのひとつに、何万人もの群衆が徐々に広がり動き出すシーンがある。

革命が起きる瞬間だ。

このシーンは、私の頭の中で出来上がった時、音楽も同時に浮かんできた。

壮大な曲だ。


その曲を形にする為1ヶ月以上も前から、ひとりでスタジオで作業していた。

主となる旋律はすぐに出来たが、壮大にする作業で行きつ戻りつな状態が続いている。

どんなに音を盛っても、どんなに深みを出したつもりでも、満足できない。


でも、心の中ではわかっていた。

どこに進めばいいのか。

でも、その一歩を踏み出していいのか迷っていた。



 大学が夏休みに入り、ケイトとシオンを保育園に送っていった後、ほぼ一日スタジオで過ごす。

シンセで音を作り重ねていく。

時には、ショウくんにギターを弾いてもらって録音する。


ショウくんも夏休みになり、ほぼ毎日スタジオに出入りして、ギターを抱えて曲を作っている。


レイちゃんは、仕事が終わった後から夜やや遅くまで、時には後輩バンドのホワンとレコーディングスタジオに入り浸っている。


そして、それぞれが頭を抱えている。



 あの頃には考えられなかったことだ。

一緒に暮らすこと8年。

音楽を作る時には、いつも3人で頭を突き合わせていた。


時には、誰かが奏でたメロディーにインスピレーションを受け、どんどん膨らんで、あっという間に一曲できることもあった。

苦戦している時には、喧嘩もした。

その曲を作り出した者に主導権があるというルールもできて、時には妥協もした。

でも、いつも3人一緒だった。


それが私達だと思っていた。

そして、それがScream Of No Nameだった。



今の私達って?


でも、なぜか不安や寂しさはなかった。



 その日、私は、ルーとレイちゃんショウくんに招集をかけた。

映画のワンシーンの曲なので、ルーにも聴いてほしかった。



ーKerlyー




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