Truth〜枝葉のように広がる感情ー6

 急ぎ足で、また来た道を引き返す。

アパートの前で、加那に電話をして部屋番号を聞く。

インターフォンを押すと、すぐにドアが開いた。


加那は、ひとりで泣きじゃくっていたのだろう。

目も鼻も赤くして、俺の顔を見るなり、また涙が零れる。

その髪に手をやり、俺の胸に引き寄せる。

咽び泣く加那の髪を撫でるしかなかった。


しばらくして、隣の部屋のドアが開き、女性が顔をのぞかせた。

加那は、俺を部屋に引き入れる。


 加那の部屋は、とても質素で綺麗に整頓されている。


「ここに座って」


と言って、小さなソファに俺を座らせた。

加那は涙を拭いて鼻をかみ、サイドテーブルの置かれたラグマットの上にちょこんと座った。


「なんだか、ごめん!

一緒にいてなんて頼んじゃって」


「俺こそごめん。

加那に辛い思いをさせた」


「だって、ショウさん知らなかったんだから。

私、誰にも言ってないもの」


「今日はお互い、このままじゃ眠れないだろう?」


そう言って、缶ビールを二つ袋から出し、缶を開けるとビールが噴き出した。

ふたりで慌てて、こぼれたビールをティッシュで拭きまくった。

加那が、少し笑いながら、


「ショウさんの失態のおかげで、少し和んだ」


「やっぱり俺?」


「だって、玄関開けた時息切らしてたもの。

私は、ビール開ける時やばいなって思ったもん」


さらにウェットティッシュで拭きまくる。


「でも、走ってきてくれて、ありがとう」


量の減ったビールで乾杯する。



辛かったが、お互いのパートナーとの別離の経緯を話す。



 大学から付き合っていた加那の彼氏は、下部リーグのサッカー選手で、トップリーグを目指して地元のチームでプレイしていたという。

前の年怪我で半分を棒に振ってしまった彼は、焦りを感じていた。

それを加那も感じていた。

なかなかスタメンに入れない彼は、オーバーワークをしていてたという。


その日も、練習から帰ってきて一緒に夕食を摂った後、ロードワークに出かけていったという。

しばらくして頭を押さえながら帰って来た彼。

腕にはめたスマートウォッチで走った距離を見て顔を上げた時、自転車が激突してきて転倒したという。

後頭部に大きな皮下血腫ができていた。


結婚を約束した仲だったが、加那の仕事は夜勤もあり不規則なので別々に暮らしていた。


「明日病院行きなよ!」


帰り際に言ったその言葉が最後だったと思うと、加那は言う。

外傷性くも膜下出血。


翌々日、チームの仲の良かったメンバーから連絡が取れないと電話があり、夜勤明けの加那が彼の部屋に行き、倒れていたところを発見したという。

病院に運ばれた数日後、意識の戻らないまま、臓器提供の打診があった。

彼のご両親が承諾した。

そして、加那もそれを認めた。



ーShowー


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