Truth〜枝葉のように広がる感情ー5
加那と歩いた道を引き返す足取りは重かった。
事件があったらしい公園の辺りに差しかかった。
俺は、この辺りで、真澄が亡くなったことを話してしまった。
公園の街灯の灯りの下で立ち止まる。
未だに、真澄を亡くしてからの数日間のことは、よく思い出せない。
ただ、一日幾度となく、モルグに横たわる陶器人形のように真っ白な死に顔の真澄が浮かんできて、それをなかなか消すことができなかった。
その頃は、そんな真澄を思い出しても涙すら出なかった様な気がする。
そんな感情のなくなった俺に、一番先に浮かんできたのは、罪悪感だ。
真澄を死なせてしまったことへの罪悪感。
自分が生きていることへの罪悪感。
そして、
ツアーを台無しにした罪悪感。
レイちゃんやカーリーに対しての罪悪感。
どんどん広がっていく罪悪感。
そして、次に浮かんだ感情は、
そんな運命を用意していた神様への怒りだった。
そして、そんな感情を抱えている自分への自己嫌悪。
加那も、そんな罪悪感や怒りや自己嫌悪を抱えていたのだろうか?
そんな俺には、そんな感情を吹き飛ばしてくれる存在があった。
生きようとし続けている小さな小さな命だ。
真澄が残してくれた子供達だ。
初めのうちはNICUのガラス越し。
そのうち保育器越しになり、きれいに消毒した手で直に触れられるようになった。
そして、初めてこの腕に抱いた時は涙が止まらなかった。
その時、俺の中に真澄が降りてきた。
真澄のワクワク感や喜び、そして切なさが、俺の中に広がった。
「抱きたいよな!抱きたかったよな!」
加那には、そんな存在はあったのだろうか?
歩き始めて少しすると、地下鉄の入口が見えてきた。
その手前にコンビニがある。
こんな気持では眠れないだろうと思って、強めのお酒を買った。
レイちゃんとカーリーがよく飲んでいる安いバーボンだ。
会計に並んでいる時、電話がなった。
加那からだ。
列から離れて、すぐに電話に出た。
電話の向こうから、すすり泣く声が聞こえてくる。
途切れ途切れに、加那がこう言った。
「やっぱり、すこし、いっしょに、いてほしい」
俺は、さらに缶ビールを買い、また来た道を小走りで戻った。
ーShowー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます