新しい匂いー22

 有希が納得したかどうかはわからない。

たぶん、俺を頼りにしている。

その俺と一緒にいる。

それだけで安心しているのだろう。


「お前、ドラム上手くなったな!」


「だって、レイお兄ちゃんいない時も練習してるもん」


「そうか!じゃあ、次のステップに行くか?」


「やったー!

もっとドラムの練習したい」



 練習場には、俺仕様のドラムの他にもう一セットある。

物置部屋から、使っていなかったドラム用の椅子を持ってきて、有希の身長に合わせた。


今までは、スネアとタムとシンバルのみ叩かせていた。

その方が楽しいからだ。


「8ビートを教えてやる」


バスドラムとハイハットが加わる。


「ここからは、楽しいだけではいかなくなる。

何度も繰り返して、体に刻み込め!」


「うん!頑張る。

あーあ!学童なんて行かないで、ずっとここで練習していたいなー」




 その後しばらくして、美由紀が迎えに来た。

久しぶりに、母屋で一緒に夕食をとる。

この日は、数人の事務職の社員が一緒だった。

有希がそのうちのひとりとゲームを始めたのを見て、美由紀を俺の部屋に呼び出した。

練習場では、ぐっさんと数人がセッションしている。



 相変わらず質素な部屋を見回して、美由紀がこう言った。


「せっかく自分の家建てたのに、相変わらず何も無いのね?」


「まあ、飯は母屋か外食で済ませるし、仕事が朝早くなったから、寝るだけだしな」


「最近カーリーがよくご飯を食べに来るようになったけど」


「あいつ、今映画の楽曲作ってる。

何かが降りてきてるとか言ってたからな」


「そんなカーリーが言ってたけど、レイちゃんに女の匂いがするって」


「なんだそれ!」


「自分の家建てたのに、夜も帰ってない日も多いって、副社長も言ってたし。

もしや、彼女できたとか?」


「彼女?どうなんだろうな」


「え!否定しないんだ」


「俺は、もう彼女とか付き合うとかの感覚ずれてるらしいからな」


「なんだか、今までと違う。

もしや本気とか?」


「本気かどうかはわからないけど、可愛いと思うし、一緒にいて楽しくもある」


「良いことじゃない!」


美由紀は、それ以上は詮索してこなかった。



ーRayー





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