新しい匂いー21

 午後3時には仕事が終わる。

その後、練習場で曲を作ったり、後輩バンドのホアンとセッションしたり今後の事を話したりする。


ショウとカーリーは、学校から帰ってきた時点から練習場に入る。

ほぼ毎日だが、それぞれ子供達の体調等によって、3人で集まれないこともある。


 真由とは都合が合えば、夜になってから食事に出かけたり、真由の家に泊まりに行ったりする。

母屋で一緒に夕食を食べることが減った。


俺は、それは好都合な事なのだと思っていた。

アイツ等に会ってしまえば、俺は、距離を置くのは難しい。



 ある日、仕事が終わって練習場に行くと、玄関の前の階段に、ランドセルを背負った有希が座っていた。


「有希、お前学校はどうした?」


「学童保育行かないで帰ってきちゃった」


「おかあさんは知ってるのか?」


下を向いてしまった有希。


「最近、レイお兄ちゃんに会えなかったから、会いに来たんだ」



いかん!

抑えていた感情が溢れ出してくる。



「まあ、入れ!

美由紀には、俺から知らせておく」


 練習場に入ると、真っ先にドラムセットの前に座る有希。

少しドラムを叩かせてやる。

その間に、美由紀にメールを入れた。

俺が少し話したいとも入れた。


ひとしきりドラムを叩いた有希と練習場のリビングに行き、椅子に座りジュースを飲みながら話した。


「どうした?

何かあったのか?」


しばらく黙り込んでいる有希。

そして、


「最近ご飯食べに来なくなったよね?

おかあさんと喧嘩したの?

僕たちのこと嫌いになったの?」



俺の感情は崩壊した。

ただ有希を抱きしめた。



「そんなわけあるはずないだろう!」


俺に今できることは、納得させる為の嘘をつき、有希を安心させてやることだけだ。


「言ったろ!

俺の仕事が変わって、仕事や練習の時間とかがずれて、なかなか一緒にご飯が食べられなくなったんだよ。

それと、お前のおかあさんとも喧嘩なんかしてない」



ーRayー




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