新しい匂いー20
「そこでなんだけど、昨日の事みんなには内緒にしておいてほしいの」
「どういうこと?」
「私、社内恋愛なんてしないって決めてたの。
まあ、ほぼオヤジしかいないんだけど。
だって別れたとかになったら、気まずくなって会社にいられなくなるじゃない?」
「そういうもの?」
「きっと、そうだよ」
俺は少し不機嫌な顔をして、テーブルに肘をついたまま真由を見上げた。
「その時にならないとわからないだろう?」
「そうだけど。
気まずい思いとか、切ない思いとかしたくないの」
「お前、やっぱり元カレ引きずってるな?」
「そういうわけじゃないけど」
「俺は、すっかりこういう恋愛とか色恋沙汰とは無縁の人間だ。
今の俺は、ただ真由を見ていたい、お喋りしていたい、そして抱きたい。
ただ、それだけだ。
何も考えないで、やってみないか?」
「そこが怖いのよ。
こんなことになるなんて考えてもみなかった。
この私が、後輩杉崎のこと気になってるなんて」
戸惑う真由を見て、俺は笑みがこぼれた。
食事の後少しドライブし、真由の家に戻り、また抱き合った。
そして、俺はその日の練習に少し遅れた。
先に来てすでに始めていたショウとカーリーが俺に近付き、俺の匂いをクンクンと嗅いでくる。
「女の匂いだ」
「でも、いつもの雰囲気と違うぞ」
と言って、俺の顔を凝視する。
俺をよくご存知で!
今まで、音楽のことだけ考えていた。
いや!考えていたかった。
特に日本に帰ってきてからは、
俺には、ショウとカーリーがいればそれでよかった。
俺達の絆は、一筋縄ではいかない程絡まって
俺は、それに快感を覚えていた。
色々あって、真っ白になって、日本に帰ってきた。
これからはインプットの時だと言いながら、俺は、他の物に侵食されるのが怖かったのかもしれない。
それぞれの家族だったり友人だったり。
それぞれの愛情だったり愛着だったり。
俺達は言葉に出さなくとも、
顔を見ただけで、
匂いを嗅いだだけで、
音を重ねただけで、
ひとつになることができる。
ーRayー
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