新しい匂いー19

 こんな所で、親父の話が出ると思わなかった。


「親父のこと知ってるのか?」


「そりゃそうよ!

私、入社5年目だもん。

杉崎君が日本に帰ってきた時の事も覚えてるもの」


「言われてみれば、そうだよな」


「最初は、あんな良い社長の息子が相当ヤバい奴なんだって、会社中で噂になったんだから」


「まじで?会社中みんな知ってるの?」


「当たり前でしょう!

今よりもっと痩せていて、目が座っていて、昼間からお酒の瓶持って飲みながら歩いてるし」


「まじかよ。

みんなに知られてたのかよ」


「社長ずいぶん甘やかしちゃったんだなって。

でも、前社長亡くなった後で、今度はお母さんが副社長になって、杉崎君をバイトで働かせるとか言って、もうこれはヤバいドラ息子が入ってくるなって、みんな警戒してたんだから」


頭を抱えたくなる俺。


「でも、いざ働き出したら、何もできないくせにみんなから一目置かれるようになって。

正直、あまり接点がない私とかは、ムカついてたわけ」


「そうなんだ」


「でも、一緒に働き始めたら、意外と真面目なんだって思った。

でも、どうしても自分を曲げないところは、お父さん似なんだって思うようになった」


「親父と親しかったのか?」


「私ね、前社長には感謝してるの」


真由は、少し目を伏せた。


「私、長距離ドライバーだった父親に憧れて、自分もなりたいと思ってこの会社を受けたの。

その時に、前社長が面接してくれて、うちでは大型トレーラーのドライバーは運転歴10年以上って決められてるんだって言われたの。

その頃私まだ20歳で、そんな私に10年頑張れるかって言ってくれて、採用してくれたの。

それまで何社も断られたのに」


「知らなかったな」


「だから、私、この会社辞めたくないの」


「うん!頑張れよ」


「そこでなんだけど」



ーRayー



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