美由紀の事情ー4

 秋も深まってきたある日、少し前まで一緒に夕飯を食べていた美由紀の携帯電話から電話がかかってきた。


「どうした?」


無言の返答の背後から、言い争う声が聞こえてくる。


「どうした?何かあったのか?」


「助けて!」


有希の声だ。


「どこにいる?家か?」


「うん」


俺は、慌てて家を出る。


「どうしたの?何かあったの?」


ママが、そんな俺を追いかけてきた。



 美由紀の家は、俺の家から角を一つ曲がった所にある、小さなボロいアパートだ。


言い争う声が聞こえてくる。

俺は、チャイムも鳴らさず、いきなりドアを開けて中に入った。


リビングで、美由紀と知らない男が口論していた。

というより、男が美由紀を怒鳴りつけていた。

それを、美由紀が落ち着かせようとしていた。



「おい!お前何やってるんだ?」



男も美由紀も、いきなり現れた俺を見て驚いている。


「杉崎くん、どうしてここにいるの?」


「お前こそ誰だ?

美由紀の男か?」


その男が言った。



「杉崎くんは、亡くなった社長の息子さんで、ただの会社の後輩だから。

関係ないから」


そう言った美由紀に、その男は、


「そういうことか?

男が出来たから、離婚届なんて届けに来るようになったのか?お前如きが」


その言葉にカチンときた俺は、その男に近付き舐め回すように睨みつけ、


「美由紀!こいつは殴ってもいいヤツか?」


そう尋ねた。

慌てて、俺を引き離す美由紀。


「杉崎くん!ダメよ!

私の夫で、子供達の父親よ。

あなたには関係のない事だから、帰って!」


そこに、ママが入ってきた。


「子供達が怯えてるでしょう!

みんな、冷静になりなさい!

外まで声が聞こえてきてたわよ!

また、警察が来るわよ」


こんな強気なママを見たのは初めてだ。


ママの一言に、その男が、苦虫を噛み潰した様な表情で黙りこんだ。


そして、捨て台詞を残して帰って行った。


「どういう事になるかわかってるんだろうな?」


でも、美由紀は負けていなかった。


「そっちこそ」



ーRayー


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