ド頭を殴られたことば「文章がつまらないということは、その人のものの見方がつまらないということでしょうか」

――文章がつまらないということは、その人のものの見方がつまらないということでしょうか。


もちろん、おっしゃるとおりです。


「書く」が好きなので、それに関連する書籍や記事を読むことがある。文章読本は初心者向けからビシバシ系、やさしい系などさまざまだ。


そのなかでもとくに印象に残っているのが、冒頭のやり取りだ。これは、「公募ガイド」2018年4月号の「テクニックで君の文章はもっと輝く!」という特集に掲載された作家・町田康のインタビューの引用だ。冒頭は聞き手の問いかけ、つづくものは町田康の答え。


「うわー。平凡に生きとったら、ええもん書けんのやろか」


と思わずお国ことばで絶望するのであるが、それに対する答えも、次にちゃんと用意されている。


 その後、「『面白く』生きるとは?」と聞かれると、町田康は「人にはネガティブな感情もあるし、サボったり感心しないこともやってしまう。悪意が生まれることもある。それを認めてどう生きていくか、ということ。自分との戦いです」と答える。


ずらっと並んだ仕事の「やることリスト」を横目についついこのエッセイをまとめている、そんな弱い自分も、ほかの家事をたんまりと担ってくれている夫が、洗濯ものを取り込んでくれなかったぐらいでイライラしてしまう自分も、見つめ、認めて生きていく……。それならできそうだ。


文章を書く。満足できない。つまらないんじゃないか。でも、そんな自分を見つめ、書いていくしかない。どどつのつまりは一生懸命生きるしかなく、その「一生懸命生きる」に「書く」が含まれているのだろう、自分の場合。


このインタビューは一見、ビシビシ系でありつつも、町田康の筋が通った人生哲学が感じられ、5年経った今も心の支えにもなっている。このインタビューが収録された公募ガイドは、Kindle Unlimitedのラインナップにあるので、気になる人はチェックしてみてほしい。


 意外だけれど、この町田康のインタビューと重なると感じたのが、ブロガー、フミコフミオの『神文章術』だった。フミコフミオといえば、とんでもない上司や同僚など、サラリーマン生活で出会ったできごとをおもしろおかしく書いたブログで人気を博している人物だ。

その著書『神文章術』では、現実をおもしろく見るためのシンプルで具体的なメソッドが紹介されている。ビジネス書で見かけるとあるメソッドをエッセイの発想に転用していて、わたしにとっては驚きがあるものだった。


 この本がすぐれているのは、そのメソッドそのものよりも、全体に「書きたいから書く」「書いてしまう」人の立場に立って書かれていることだとわたしは思う。


たとえば、ブログメの書き方、そしてWeb小説でも気にされがちな、改行はしたほうがいいのか? キャッチーなタイトルとは? などのPVを伸ばすためのテクニックについて。フミコフミオは自由に書けと一蹴し、次のようにいう。


「『カタチが整っている』と『読みたくなる』は等号(イコール)でつながらない。カタチは従で、内容が主だ」。


このアドバイスは、筆者が「PV爆上げする文章を書くメソッド」「僕のような人気ブログを作成するハウトゥ」を提唱していたら、欺瞞である。しかし、フミコフミオは一貫して、「他人のために書くな、愛される文章など目指すな」「まずは書きたいことを書く方法を考えろ」「自分の人生のために書け」「他人の評価はその結果にすぎない」と主張し、「書きたいことを書く」ためのメソッドを紹介している。


この本でもっとも胸に突き刺さった問いかけは、これだ。

「あなたは自分が書いた文章が愛されなかったら、書くのをヤメてしまうのですか?」(『神文章術』283ページ)


わたしはブログも書いているので、ブログの書き方本も何冊か読んだことがある。たいていの本は「何か伝えたいことがある実用的なブログ」「アフィリエイトでの儲けにつながるブログ」を前提にしており、そもそも、「書きたいからエッセイ的な文章を書いてしまう人間」のことは想定していない。そういったブログ本はこぞっていう。「読まれないブログには意味がありません」。だから、「読まれるためのメソッド」を彼らは解説する。ブログ以外の、実用的な文章を前提にした文章読本もそうだ。


が、「読まれなかったらやめんの、あんた?」と問いかけてくる本ははじめてだった。


そのうえで、冒頭の町田康の話にも通じる、「つまらない平凡な人生、弱い自分を見つめる方法」「それを自分にしか書けない文章に落とし込む方法」を解説している。


 文章は嘘がつけない。自分サイズのものしか書けない。それでも書くしかない。自分を見つめて、生きるしかない。

 でも! あんまり読まれないとつらないんだよぉ、心が持たないんだよぉ! と泣き言を言いたくなることもある。頻繁にある。

 そんなとき、わたしはこの雑誌と本を心の支えに、「やるしかねえな」と考えな直すのであった。


皆さんにも、創作関連で「ド頭を殴られたことば」はありますか? よかったら教えてくださいね。

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