5.双子聖剣の顕現
翌朝。眠気眼を擦りながら俺はリサの手により着替えをさせられていた。
青を基調とした詰襟の上着には、白色の刺繍糸で襟元袖口に大鷹の翼を表す刺繍が施されていた。
上着に隠れて見えないがシャツの襟首には、赤色の刺繍糸で翼の刺繍がされていた。
そして、白い手袋をする。
クロフォード公爵家を示すのは、この青色を基調とした布地と大鷹の翼である。
ちなみに、フォレスト侯爵家は緑色を基調とした布地と大樹である。
今日のミレイアは、緑色のドレスにスカート部分に大樹のモチーフが刻まれたレースがあしらわれているはずだ。
この年の洗礼の儀は、俺とミレイアの独壇場になる。
『アルマディオン』も『アニムスディオシス』も共に聖剣である。
「レイン様、ご準備終わりました」
「ありがとう、リサ。あ、そうだ。今日私の婚約者を招くことになると思うから準備だけしといてくれるかな?」
「え?レイン様。婚約なさったのですか?」
「うん、昨日陛下にも認めてもらっているよ」
「畏まりました。では、洗礼の儀が終わりましたらお迎えに上がります」
「うん、よろしくね」
実は、これも規定通りだったりする。
前世では、俺は教会でプロポーズをしてミレイアを連れだしたんだ。
そして、彼女を連れて王都邸に帰ってくる。
その後、フォレスト侯爵にめちゃめちゃ怒られた。
だが、今回はそんなことにはならない。
俺は、その後馬車で聖王国随一のセントバルクーリ大聖堂へと送ってもらった。
大聖堂の前には、真っ白な服を着た少年少女がいた。
彼らは、庶民の5歳児たちである。
今日は一律洗礼の儀を行う。
まずは、俺達貴族令息・令嬢が先に行う。
大聖堂に入る。
俺が入るとすぐにミレイアが近づいてくる。
うん、前世と同じ装いだ。
「レイン様。おはようございます」
「おはよう。ミレイア。今日も可愛いね。とても似合っているよ」
「ありがとうございます。うふふ、可愛いは久し振りに言ってくれました」
「そうだね、君は綺麗が一番合うようになっていくから」
ミレイアは、頬を赤く染めた。
「そうだ、ミレイアは『アニムスディオシス』は呼び出した?」
「うん、一度だけ」
「じゃあ、俺と同じだな。喋りまくって困るけどな」
「『アルマディオン』もそうなんだね」
つまり、『アニムスディオシス』も 意志を持つ
やはりどちらも知識を欲しているのだろうか。
「もしかして、武器鑑定をするとアビリティが見えたり?」
「はい、同じなのですね」
「そのようだ。俺は、【ロード】だったよ」
「私は、【リード】でした」
【ロード】と【リード】か。
何か違うのだろうか。
「そろそろ、俺達の順番になりそうだな。行こうか」
「はい、レイン様」
俺達は、大聖堂の奥にある宣言台へと向かっていく。
そこには、列が途切れようとしていた。
まずは、ミレイアの番だ。
「じゃあ、行っておいで」
「行ってきます。レイン様」
彼女は、宣言台に向かう。
そして、右手を胸の中央に翳す。
「我が内に眠りし宝剣よ。我が呼び声に顕現せよ。『アニムスディオシス』」
ミレイアが、そう言うと心象武器を胸から引き抜いた。
その瞬間。
どこからか『ゴーンゴーン』と鐘の音が聞こえた。
『アニムスディオシス』の顕現に光が溢れ出る。
昔見た光景だ。
光が透けて神々しく見えるミレイアの銀髪。
この姿に、惚れたんだったな。
俺は、ミレイアに近付いていく。
「教皇様、私も共によろしいか?」
「はい、レイン・クロフォードに神の祝福を」
初老の男性が、豪奢なローブを着て立っていた。
彼から、宣言をされる。
ミレイアの隣に立ちながら俺は、右手を胸に翳す。
「我が内に眠りし宝剣よ。我が呼び声に顕現せよ。『アルマディオン』」
俺は、『アルマディオン』を引き抜く。
それと共に、更に「ゴーンゴーン」と鐘が鳴り響く。
隣に立つミレイアが俺を見ていた。
「もう、レイン様。私もあの日の光景を後ろから見たかったのに」
「ああ、ごめん。君の姿を見ていたらつい、ね」
「せ、聖剣が二振り!!!」と教皇が叫ぶ。
ああ、少しだけ変わったな。
あの時は、それぞれに「聖剣」と言われ大騒ぎになった物だ。
「レイン様、前より大騒ぎになってますよ」
「そうだな、まあいいだろう。俺達は、これからずっと一緒なんだから」
「はい」
大騒動の末に、俺達はクロフォード公爵王都邸へと逃げることになった。
ミレイアは、予め俺の所に寄ってから帰ることを告げていたらしい。
「懐かしいですね」
「ああ、あの日もこうだったからな。だから、前もって来客があることを告げといたからな。流石に、また怒られたくはないからな」
「あはは、そうでしたね。懐かしいですわ」
俺達は、公爵家の馬車に乗りながら会話をしていた。
俺に寄り添うように、ミレイアが座っている。
「それで、ミレイア。これからの事で話があるんだ」
「はい、どういたしましょう?」
「まずは、あの未来に辿り着かないようにしたい」
「はい、私も二度とレイン様と離れ離れは嫌です」
「俺もだ。だから、父上の死を回避させようと思う」
「お義父様の死ですか。確か・・・」
「死後、皮膚の炎症と腹や胸に水が貯まった。後に、毒が用いられたとされている。
数年から10年近くの長い間少しずつ少しずつ摂取してらしい。
もしかすると、今も取らされているかもしれない」
俺は、公爵として統治する間に調べ上げた。
毒性を判別する魔導具を取り寄せたことがあった。
その時に、知った。
父上が、毒殺されたことを。
慢性的に臓物が腐っていったという。
「毒ですか・・・それを判別、治療が出来るようになることが最優先と言うことになりますね」
「ああ、それには『アルマディオン』と『アニムスディオシス』のアビリティが必要になる気がするんだ」
「レイン様の【ロード】と私の【リード】ですね」
「『アルマディオン』が言っていた。知識を寄こせと。
魔導工学の知識を与えてみようと思うんだ。
俺自身も少し学んでみたい」
「はい、私もお付き合いします。
では、明日は大魔導図書館へ行ってみませんか?」
「そうだな。確かに、あそこになら魔導工学の研究レポートもあるだろう」
俺達の指針が決まりつつあった。
ミレイアと『アニムスディオシス』との再会が為された今、俺達は前に進むしかない。
目標が定まった頃。馬車は、公爵王都邸に辿り着いた。
「レイン様」
馬車のドアが開く。
従者がドアの向こうに立っていた。
俺は、馬車を下りミレイアに手を差し伸べる。
「ありがとうございます、レイン様」
彼女が、馬車を下りると俺達は邸の中へと入っていく。
邸に入ると母上が待ち構えていた。
「レインちゃん、来客があるって・・・あら、ミレイアちゃん。
いらっしゃい。うふふ、2人共私とティータイムでもいかがかしら」
「はい、シルビア様」
「もう、ミレイアちゃん。シルビア様なんて他人行儀な。お義母様と呼んでほしいわ」
「・・・はい、お義母様」
「うふふ、嬉しいわ」
母上は、上機嫌で応接室へと歩を進めた。
俺達もその後ろをついていく。
「少しだけ早い展開だな」
俺は、そうミレイアに呟く。
「はい、でも結局はお義母様と呼ぶことになるので変わりませんね。
2週間ほどの差です」
前世では、婚約が承諾されるまで1週間以上先だったから『お義母様』と呼ぶのは2週間近く先の話だった。
だが、昨晩のうちに婚約が決まったので先倒しになっているようだ。
まあ、規定通りではあるかな。
この後、母上に俺達の聖剣を見せることになった。
そこで分かったことがある。
まず、『アルマディオン』と『アニムスディオシス』の声は俺とミレイアにしか聞こえないこと。
母上の心象武器のレイピアを武器鑑定したところ、アビリティに【リード】が存在すること。
そして、俺達2人の武器鑑定が【★★☆】になっていることが分かった。
それによって、『アルマディオン』と『アニムスディオシス』が欲する触媒が分かった。
『アルマディオン★
意志を持つ
アビリティ:【ロード☆】【武器鑑定★★☆】
触媒:魔導方程式』
『アニムスディオシス★
意志を持つ
アビリティ:【ロード☆】【武器鑑定★★☆】
触媒:魔導方程式』
どちらも魔導方程式が触媒だった。
魔導方程式は、魔導を起動させるための言語である。
火の魔導を発動させるには、方程式を用いマナを凝縮し、生成する。
魔導具を構成しているのは、その魔導方程式である。
つまり、魔導工学の知識は彼らの求める餌になりえるようだ。
その日は、ミレイアの迎えが来るまで2時間ほど談笑をした。
今回は、侯爵に怒られなかった。
翌日は、俺がミレイアを迎えに行くこととなった。
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この世界には、魔法がありません。
その代わり、魔導工学が発達しています。
魔導工学で作られた魔導方程式を用いることで魔法のようなものを使うことが出来るようになります。
次回、魔導工学と魔導方程式。
【ロード】&【リード】の使い方が明らかに。
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