4.再び2人で歩み始める

俺達は、噴水脇のベンチに座って話をした。


「レイン様は、あの後戦い続けていたんですね」

「ああ、10年大戦を傭兵として戦い続けて最後の戦場で・・・」


ミレイアは、俺の言葉を聞くと頭を撫で始める。


「ちょっと、ミレイア」

「レイン様の髪、久し振りです」

「ああ、懐かしい・・・なあ、ミレイア。

俺とまた歩んでくれるか?」

「はい、レイン様」

「よかった、君のいない人生はもういやだからな」

「それは、私も同じよ。レイン様」


俺達は、いつの間にか手を繋いでいた。

やっと、昔の俺達に戻れた気がする。


「ミレイア、前世と同じ流れでいいかな?」

「・・・はい」


俺達は、その後会場へと戻った。

といっても、触れ合う手を放すことは出来なかった。

前世とは少し違う出会い。

でも、これから先は変わらない。

一日違うだけだ。

俺達は、前世でも5歳の時に婚約者になった。

だから、一日違うだけの事だ。

あの日、俺は教会で彼女と出会い、ミレイアに恋をした。

そして、その場で婚約を申し出た。


「あら?レインちゃん。その子は?」


会場に戻った俺を母上が見つける。

彼女の横には、父上も立っていた。


「父上、母上。彼女は、ミレイア・フォレストです」

「お初にお目にかかります。クロフォード公爵閣下、クロフォード公爵夫人様。

わたくし、アルフレッド・フォン・フォレスト侯爵が2女ミレイア・フォレストと申します」

「うむ、こちらこそ。レインと仲良くしてくれてありがとう。

クロウド・フォン・クロフォードだ。よろしく頼む」

「あらあら、これは丁寧にありがとう。

ミレイアちゃん。私は、シルビア・フォン・クロフォードよ」


ミレイアの挨拶が済んだ。

流石に、彼女の挨拶に問題はない。

まあ、15年共に過ごし公爵夫人としてすごした数年がミレイアの中に経験として息づいている。


「父上、お願いしたい義があります」

「ふむ、聞こう」

「ミレイアを私の妻としたく思います」

「ほう、君もいいのかい?ミレイア」

「はい、私もレイン様のおそばに居たく思います」

「いいだろう、ではフォレスト侯爵とは話して参ろう」

「あら、それなら私もアリアの所にいくわ」


アリアと言うのは、ミレイアの母で母上の実妹である。

実は、俺とミレイアは従兄妹にあたる。

ただ、フォレスト侯爵には2人の夫人がいる。

側室にあたるのがアリアである。

両親は、俺達を残して行ってしまった。

しばらくすると、音楽が流れ始める。


「ミレイア・・・私と踊っていただけますか?」

「はい、喜んで」


俺達は、ホールの中央へ向かい踊り始めた。

周囲の人の目が俺達を見ている。


「懐かしいです。レイン様とまたこうして踊れるなんて」

「ああ、久し振りに踊ったがミレイアが一緒だと楽しいな」


俺達は、話しながらも踊っていく。

やがて、ダンスも終わる頃。新年を迎えた。


「レイン様」「ミレイア」


俺達は、名残惜しい気持ちが高まりすぎてなかなか手を放せずにいる。

そこへ、両親とフォレスト侯爵・侯爵夫人がやってきた。

本妻の侯爵夫人ではなく、側室のアリアだけが付き添っていた。


「レインちゃん、こちらがアルフレッド・フォン・フォレスト侯爵とアリア・フォン・フォレスト侯爵夫人よ」

「お初にお目にかかります。フォレスト侯爵様、フォレスト侯爵夫人様。

クロウド・フォン・クロフォード公爵が第1子レイン・クロフォードです」

「ミレイアもなかなかだが、レイン殿もなかなか。

おっと失礼。アルフレッド・フォン・フォレストです。

レイン殿よろしくお願いする」

「ミレイアちゃんと同じくらいに頭がいいのね。

流石、姉さんの息子ね。私は、アリア・フォレストよ」


アリアは、姉の息子としての扱いで挨拶をしてくれていた。

俺としては、その方が気が楽だが。


「レイン殿。公爵閣下からミレイアとの婚約の話を聞いたのだが」

「はい、私はミレイアの事を好きになりました。

侯爵様にお許しをいただきたく」

「お父様、お母様。お願いします。

レイン様と一緒にいさせてほしいのです」


侯爵とアリアは、顔を見合わせる。

そして、笑みを浮かべる。

侯爵は、そのあと父上とも視線を向ける。

そして、頷いた。


「レイン殿。ミレイアのこと頼みます」

「はい、ありがとうございます」


こうして、俺達は一日早く婚約が成立した。

そして、そのまま俺達は両親たちに連れられて国王に新年の挨拶をしに行くことになった。

国王・・・ガルシア・クリフォト・セントバルクーリ。

父上の兄である。

見た目はほとんど似ている。

黒髪なのは同じだ。

頭には、クラウンを被っている。

体躯も細身ではあるが、唯一の違いは髭の違いだろうか。

父上は、髭がないが国王はある。

カイゼル髭と言うやつだ。


「陛下。新年の挨拶に参りました」

「うむ、クロウドもアルフレッドも今年もよろしく頼む。

ふむ、お主らの子供か?」

「はい、レイン・クロフォードです」

「はい、ミレイア・フォレストです」

「2人共これから頼む。期待しているぞ」

「はい、陛下よろしくお願いします」


俺は、片膝をついて頭を下げる。


「はい、陛下よろしくお願いします」


ミレイアは、ドレスのスカートを両手で掴みカーテシーをする。

俺達は、国王に挨拶をする。

国王は、「ほぉ」と小さな声を上げていた。

俺とミレイアは、5歳児とは思えないほどのマナーを披露している。

その所為だろうか。


「クロウド、アルフレッド。

どうしたら、こんなできた子供になるのだ?」

「いえ、気が付いたら」と父上。

「私の方も、気が付いたら」

「そうか、私も見習いたいものだ」


国王が肩を落とす。

彼には、3歳になる王子がいる。

今は、王妃と共に別室に待機している。


「陛下。もう一つお願いしたい義が」

「うむ、申してみよ」

「はい、レインとミレイア嬢の婚約を承諾いただきたく」

「あい、分かった。2人の婚約を認めよう」

「有り難き幸せ」と俺が言う。


国王は、ギョッとした目で俺を見た。


「おい、クロウド。お前の息子、年齢間違えていないか?」

「いえいえ、滅相もない。れっきとした5歳です」

「まあ、いい。皆、今年もよろしく頼む」

「御意にございます」と男3人の声が合わさった。


そして、俺達は国王の前から離れる。

今日は、これでミレイアとはお別れだ。

でも、数時間後にはまた会える。


「ミレイア、また明日。あの場所で」

「はい、レイン様。あの子達にも早く再会してもらいたいです」

「うん、そうだね。じゃあ、おやすみなさい」

「はい、レイン様。おやすみなさいませ」


俺達は、それぞれの両親に連れられ王都邸へと帰宅するのだった。

その帰りの馬車の中。


「レイン。まさか、洗礼の儀よりも先に婚約者を決めるとは思わなかったぞ」

「すみません。ミレイアとは運命を感じたので」

「うふふ、まさか妹の娘が義娘になるだなんてね」


母上は、嬉しそうに笑みを浮かべた。

この笑みは、前世でも見た。

前世だと、ミレイアと会うのは洗礼の儀の時。

俺が、プロポーズをしたのは洗礼の儀をしている教会。

そして、国王から婚約の許しを貰ったのは1週間以上先の話だった。

少しずつ前世とは変わっていく。

明日以降は、ミレイアとの時間も増えていく。

やがて、王都邸に辿り着き俺は眠りに落ちるのだった。


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名前の違いについて

アルフレッド・フォン・フォレスト

アリア・(フォン)・フォレスト

ミレイア・(フォン)・フォレスト


レイン・(フォン)・クロフォード

クロウド・フォン・クロフォード

シスビア・フォン・クロフォード


フォンは、当主と正妻のみが名乗れます。

で、シルビアがアリアをフォン呼びにしていました。

正妻である夫人は社交界にも参加しない不貞の輩の為です。

→この不貞は所謂不倫などの意味です

国王への新年の挨拶に訪れないほどにダメな人です。

基本令息・令嬢はフォンを名乗れません。


また、国王の許しが1週間以上先だったのは洗礼の儀を見て婚約希望が増えたからです。

今回は、先制をしています。

まあ、その結果・・・こちらは後日。


次回は、遂に洗礼の儀です。

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