3.そして、『彼女』と再会する

聖王歴648年12月末。

俺は、クロフォード公爵領を出てセントバルクーリ聖王国の王都クリフォトへ向かう為に公爵家所有の馬車へ乗ることになる。

その日は、朝から出発準備をしていた。

見習い侍従・・・後にメイド長になる少女リサに着付けをしてもらっていた。

11月に作られた新しい服に袖を通す。

袖口や襟元に意匠を施された青を基調としたブレザー。

シャツの襟元には、朱色の刺繍が施されている。

懐かしい。当時、こんな服を着ていたな。

もう数日で新年を迎える。

貴族位の令息、令嬢の5歳のお披露目が行われるのもこの日である。

年を越すと俺はまた一つ歳を取る。

5歳の誕生日だ。

皆等しく1月1日に年を取る。

数え年と言うやつだ。

本来の誕生日にもお祝いをすることもある。

貴族位にない平民に関しては本来の誕生日を知らずに育つことがある為、一律に数え年となっている。

また、教会の洗礼は平民も等しく行われる。

同じ5歳の時にである。

クロフォード公爵領から王都までは馬車で数時間の距離にある。

王都に隣接する領地で、王都までに5つの村と街がある。

そこへ寄り王都へと向かうのだ。

儀式用の衣装と外出用の服とを持っていくことになる。


「レイン様、御召し物の準備が整いました」

「ありがとう、リサ」

「御当主様、奥様がお待ちです」

「うん、じゃあいこう」


俺は、リサを伴い玄関へと向かう。

玄関は、開け広げられ玄関先には豪奢な造りの馬車が3台停められていた。

馬車には、我がクロフォード公爵を示す大鷹のエンブレムが刻まれている。

父上・・・現クロフォード公爵クロウド・フォン・クロフォードが玄関で指示を出していた。

彼は、スラッとした体躯を覆い隠すように俺と同じ造りのブレザーを着ていた。

父上とお揃いの恰好である。

唯一違うのは、彼の肩には貴族位当主を表すマントを靡かせていることだ。

ただ、儀式用ではない為左肩のみの肩マントである。

儀式用の物は、外套とも言える丈の長いもので裏地は赤く、表面は青を基調にしている。

背中には、エンブレムが刻まれている。

肩マントにも、中央にエンブレムがあり裏地は赤く、表面は青を基調としている。

父上の左腰には、宝剣が佩刀されている。

この宝剣は、貴族位を表す剣で儀式剣である。

俺も、当主時代は儀式の度に佩刀をしていた。


「レイン、来たか」

「はい、父上。お待たせしました。

付かぬことをお聞きしますが母上は何処に?」


前世では、ここで母上のことを尋ねず馬車に乗り込んだものだ。

そう、母上は先に搭乗を済ませている。


「シルビアなら、もう既に馬車へ乗っておる。

真ん中の馬車だ。レインも先に乗るがいい」


馬車は、先頭が従者専用、真ん中が俺と両親、後ろが荷物の割り当てになっている。

外見からは分からないようになっているので、充分囮役としての役割を担える。


「では、私も先に搭乗させていただきます」


俺は、馬車へと乗り込む。

中央の馬車へ向かうと俺の後ろからやってきたリサが扉を開ける。


「あら、レインちゃん。いらっしゃい」

「母上、お待たせしました」

「うふふ、レインちゃんはママの前に座ってね」


俺は、進行方向に背中を向けて、母上の向かいに座る。

この頃の父上と母上は、寄り添うように馬車に乗っていた。

まだ、20代も半ば・・・来年の今頃には妹もこの世に生を受ける。

彼女は、後に俺の跡を継いで騎士団長になる。

クレアにも、悪いことをしてしまった。

弟にも跡目を負わせることになってしまった。

俺は、悪い兄だったかもしれない。

今世では、2人にも優しくありたいものだ。

未来を変えるということは、2人の進路も変えることになるだろう。

未来の為に、考えることは山ほどあるな。

やがて、父上が馬車に乗り込むと母上は肩を寄せながら座る。

そして、王都へ向けて馬車は走り出した。

相変わらず、揺れが凄いな。

俺は、乗馬の方が好きだ。

よく、ミレイアと乗馬で出掛けたものだ。



6日後。聖王歴648年最後の日。

俺達は、5つの村と街へ立ち寄り王都へと辿り着いた。

そして、王都にあるクロフォード公爵邸へと無事に到着を果たしたのだった。

それから、夜の晩餐会の為に俺達は湯舟で旅の垢を流し着替えをする。

あれ?明日の参加者の令息・令嬢は今日付き添いできていたはずだ。

妹の時も、そうだった。

晩餐会・・・もしかしたら、ミレイアに会えるかもしれない。

前世で、今日会った記憶はない。

だが、会えたとしても俺は彼女にどんな言葉を掛けたらいいのだろう。

俺の知るミレイアではないかもしれない。

寄り添っていてくれた彼女ではなく、まだ無垢な少女のミレイアなのだろう。


俺は、晩餐会用に用意された燕尾服に袖を通す。

豪華な意匠などはない。

シンプルな黒色の燕尾服である。

そして、黒色の蝶ネクタイをしている。

今の俺でもダンスは充分に踊れるだろう。

まあ、今日はまだ機会はないだろうが。

夜の帳が下りる頃。王宮にあるセレモニーホールへと馬車で乗り付ける。

王都の街路は、光魔水晶の柔らかな灯りで明るく夜の街並みを演出している。

セレモニーホールは、年末から1月末まで社交の場となる。

俺達も、ひと月の間滞在することになる。

今日は、年明けまで晩餐会が行われ、新年の挨拶を国王にすることになる。

それまでは、自由に会場で過ごすことになる。

子供にとっては退屈な時間だ。

当時、俺もそうだった気がする。

だからこそ、この日の記憶があまりなかった。

いや、違うな。

明日の出来事で、記憶が上書きされたのだろう。


「では、レイン。私達は、挨拶回りをしてくるからな」

「はい、私も令息・令嬢の元に挨拶へ行ってまいります」

「ふふ、レインちゃんも頑張ってね」


俺は、両親の背中を見送り会場を1人で歩いていく。

ミレイアを探してみよう。

貴族令息として、挨拶することは間違ってはいないだろう。

俺から話しかけるなら問題はない。

侯爵令嬢であるミレイアへなら。

彼女の髪色は、目立つ。

しっかり、探せば見つけることが可能なはずだ。

会場をキョロキョロと眺めるが彼女の姿が見当たらない。

俺は、ホールから出て中庭へと歩を進めてみることにした。

中庭には、小さな噴水があり庭園へとなっている。

噴水の横にあるベンチに、月光に照らされる白銀の髪が見えた。

いた!そうか、この日彼女は中庭にいたのか。

俺が、前世で会わなかったはずだ。

前世では、ホールで暇をつぶしていたのだから。

彼女は、青色のドレスを着ていた。

俺は、彼女に近付いていく。

足音に気づいたのか、ミレイアは顔を上げる。


「え!」


彼女の口から驚愕の声があげられる。

ミレイアは、ベンチから立ち上がり俺に駆け寄ってきた。


「ミレイア・・・はしたないよ」

「レイン様・・・やっと会えました」


ああ、彼女は俺が愛した『ミレイア』だ。


「やっと会えた・・・15年振りだ」


俺の服が涙で濡れていく。

ハンカチーフを取り出して、彼女の涙を拭う。


「ミレイア、待たせてしまったね」

「本当は、明日まで待つつもりでした。貴方にまた出会えて嬉しいです」

「俺もだよ。ミレイア。

前世で今日会った記憶はなかった。

でも、きっといると思っていたよ」


俺の目からも涙が零れていた。

『彼女』と再会できた。

その喜びに、胸の奥が温かくなった。

きっと、『アルマディオン』も喜んでいるのだろう。


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レインとミレイア

2人共タイムリープにしました。

2の後書きに書いた【ロード】ですが

少し修正します。

レインが【ロード】、ミレイアが【リード】にします。

ミレイアは侯爵令嬢になります。

会場にいた場合は、公爵であるレインからなら話しかけることはできますが

ミレイアから話しかけることは出来ません。

初見の相手に対しては、爵位上位に対しては紹介でしか話しかけることが出来ません。

その為、レインはミレイアに話しかけに行きました。

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