昔話の秘密

@penta1223

昔話の秘密

村には伝わる言い伝えがあった。それは「夜中に古井戸の周りを三回回ると、何かが起こる」というもの。大人たちは子供たちにこの話をして怖がらせていたが、実際にやってみた人は一人もいない。そんな中、都会からA君という少年が引っ越してきた。彼は前の住んでいた場所でのトラブルを理由に田舎で新しい生活を始めることになった。


A君は都会の学校での出来事を忘れるために、新しい友人たちと毎日を楽しく過ごしていた。しかしある日、B君という少年がA君に言い伝えの話をした。B君は「本当に夜中に古井戸の周りを三回回ったら何が起こるのか、君と一緒に試してみたい」と言った。A君はB君と仲良くなりたくて、そして都会の学校でのトラブルを完全に忘れるために、この提案を受け入れた。


夜、2人は古井戸の周りを手をつなぎながら三回回った。しかし、何も起こらなかった。B君は「やっぱりただの昔話だったんだ」と笑いながら言った。2人は安堵の笑顔を交わし、家路についた。


しかし、次の日からA君の周りの人々の様子がおかしくなった。村の人たちは彼を避けるようになり、学校では先生や生徒たちが彼を恐れるような目で見るようになった。A君は混乱していたが、B君は何も感じていないようだった。


ある日、A君は自分の家の前に大勢の村人たちが集まっているのを見た。彼らは彼を指差し、何かを話し合っているようだった。A君は恐れを感じながらも、一歩一歩家に近づいて行った。家に入ると、母親が泣いていた。彼女はA君に「何をしたの?」と叫んだ。A君は何も答えることができなかった。


その夜、A君は家を出て、B君の家に行った。しかし、B君の家の前には誰もいなかった。家の中に入ると、B君が床に倒れていた。彼は血を流しており、顔には恐怖の表情が浮かんでいた。A君は泣き叫びながらB君の体を抱きしめた。


昔話の言い伝えが現実になったのか、それとも別の何かが起こったのか。A君はその答えを求めて、深い闇の中へと足を踏み入れていった。


A君は泣きながらB君の体を揺さぶったが、彼は一向に目を覚まさなかった。何度も名前を呼んでも反応はない。すぐに救急車を呼ぶべきだと思ったが、B君の家の電話は切断されていた。そして、突然家の中に冷たい風が吹き込んできた。


A君は思わず身を縮めた。彼は、風の方向から、何かが近づいてくる気配を感じた。そして、その気配がB君の身体の上に停まった。


目を上げると、B君の体の上には黒い影が立っていた。その影はA君をじっと見つめている。そして、ゆっくりと口を開けた。「古井戸の周りを三回回ったのは君たちか」と、低く冷たい声で言った。


A君は震えながら答えた。「はい…でも、それはただの昔話だと思って…」


影は微笑んだ。「昔話には真実が隠されているものだ。私はこの村の守り神。そして、私の役目はこの村の秘密を守ることだ。」


A君は混乱して言った。「ならば、B君を助けてください。彼は悪いことをしていません。」


影はしばらく考えた後、言った。「私の力で彼を助けることはできる。しかし、それには代価が必要だ。」


A君はすぐに答えた。「何でもします。B君を助けてください。」


影は再び微笑んだ。「君たちが古井戸の周りを三回回ったことで、村のバランスが崩れてしまった。そのバランスを取り戻すためには、君が私の助手として、村の秘密を一つ守る必要がある。」


A君は怯えながらも、B君のためにそれを受け入れることにした。


翌日、村の人々の様子は通常に戻っていた。B君も目を覚まし、元気になった。しかし、A君の運命は大きく変わってしまった。彼は影と共に、村の深い森の中に住むことになった。


村の人々はA君の存在を忘れ、新たな昔話が生まれ始めた。しかし、A君は森の中で、影と共に、村の秘密を守り続けることになった。


森の中で過ごす日々は、A君にとって刻一刻と重苦しくなっていった。彼は日々、村の秘密を守るための仕事をこなし、影との会話を楽しみにしていたが、村の人々との接触が一切ない生活は彼を孤独にさせていた。


ある日、森の中にB君がやってきた。彼はA君を探して森に入ったのだ。二人は再会を喜び、抱き合った。B君は「村の人々はお前のことを忘れてしまった。でも、俺はお前のことをずっと探していたんだ」と言った。


A君は涙を流しながら「ありがとう」と言ったが、同時に「君はここに来るべきじゃなかった」とも感じていた。なぜなら、森の中には村の秘密が数多く眠っているからだ。


B君はA君を連れて村に帰ろうとするが、その途中で怪しい気配を感じる。二人は隠れることにした。そして、その場所からは村の秘密の一つが現れた。それは、夜な夜な森で踊る幽霊たちだった。


A君はB君に「これが村の秘密だ。夜になると森で幽霊たちが踊り始める。これを見てしまったら、二度と村に帰ることはできない」と語った。B君は驚き、A君を連れてすぐに森を出ようとしたが、その時、影が現れた。


「B君、君もこの秘密を知ってしまった。だから、君もここからは出られない」と言い、B君を捕まえようとした。A君はすぐにB君を守ろうとして影と対峙した。二人は激しく戦い、最終的にA君が影を倒すことに成功した。


しかし、その代償としてA君は深い傷を負ってしまった。B君は泣きながらA君を抱きしめ、村に助けを求めるために走った。数日後、A君は村の人々に救われ、元の生活に戻ることができた。


そして、村の言い伝えは少し変わった。「夜中に古井戸の周りを三回回ると、何かが起こる」というものから、「夜中に古井戸の周りを三回回ると、村の秘密を知ることになり、二度と村に戻ることができなくなる」というものになった。これは、A君とB君の経験を基にしたものであり、村の子供たちにはこの新しい昔話が語り継がれていくことになった。

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