第3話 みんなで人生二週目
僕は、三島 光太郎。IT会社でプログラマーをしている。3Kとかよく言ったもんで、本当に毎日、残業続きで、しかも月給は安くて辛い。こんなんで、結婚とかできるのだろうか。子供の学費とか無理だろうし。
別に偉くなりたいわけじゃないけど、今の時代、一流大学出ても同期で課長になれるのは1人ぐらいだって。しかも、僕、一流大学出ていないから、課長になれないこと確定だね。結局、年収って定年までに400万円とかいくんだろうか。
奥さんも働かないとやっていけないけど、誰が子育てをするのかとか不安なことばっかりだ。なんか、不満ばっかりで奥さんと喧嘩している毎日なんだろうな。どうしてこんな世の中に生きているんだろう。
老後も、安心して生活できる気がしない。年金とか、僕が60歳とかなったら出なくなっていたりして。同年齢で自殺者が多いって、わかる気がする。将来に夢が持てないもんな。物価高で年金受給者が困っているとかニュースになっているけど、もらっているだけでもいいじゃん。
時々、男どおしで安い居酒屋に行って騒ぐのが唯一の楽しみ。女とも付き合いたいけど、こんな安月給じゃ、付き合ってくれないだろうな。僕は、それなりのルックスだと思うけど、それだけじゃね。
僕だって、学生の時は、美人の彼女がいて、いろいろなところに連れ回した。でも、今の会社に入社してから、いつの間にか自然消滅してしまった。今から思うと、彼女は、いつもわがままだったし、話しといえば、ネールが綺麗でしょとか、このイヤリング可愛いでしょとか、そんな話しばっかりで、僕のこと見えていたのか分からなかった。だから、別れて良かったのかもしれない。
そんななか、ある日、世の中がざわつき始めた。何かというと、人の意識と記憶は前に進んでいるけど、時間は、毎日、1日づつ戻っているということだった。よく分からないと思うけど、言い換えると、夜12時を過ぎると、その前の日の朝0時になるということらしい。
最初は、時計の日付が違っていて、時計の故障かと言われたけど、次に、昨日、5万円口座に入れたのに預金残高が変わっていないとクレームも出て、人には実感できないけど、時間が戻り始めたということがわかってきた。
例えば、子供たちは、しばらく経つとどんどん幼くなって、はいはいもできなくなり、生まれた日の翌日には母親のお腹に戻り、10ヶ月経つとこの世の中から消えてしまう。妊娠しても、翌日には妊娠する前に戻るので、出産ということがなくなった。
また、過去に死亡した人は、復活しないということがわかってきた。奥さんが死亡した日に戻ったら、また会えるという期待があったが、戻っても奥さんはいなかったと泣いていた人がテレビに出ていた。そういうことで、人口は減る一方だった。
それだけじゃなく、今日、5万円を儲けても、夜12時になると昨日に戻り、5万円を儲けた事実はなくなるので、頑張ってもしかたがないという気分が蔓延した。逆に、どんなにお金を使っても、翌日には、その前の日に持っていたお金に戻るので、誰も、仕事をしなくなった。
電車とかタクシーも見なくなり、みんな家にいるか、公園とかで寝そべっている風景しか見なくなった。
朝起きると、働く店員がいないスーパーに行って、棚に並んでいる食材を持ち帰って、家でゴロゴロと過ごし、お酒を飲んで寝たら、前の日になるという生活が一般化していった。
レストランとか、遊園地とかも働く人がいなくなったので、楽しみというと、食べるとか、エッチするとか、動物的な生活しかなくなった。
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