第2話 女子アナ

 事故で何が起こったかわからないまま、目を開けたら、会社の一室でテレビ局の入社式に参加し、椅子に座っていた。新卒は20名ちょっとで、大体がコンテンツ制作・ビジネス部門という配属で、アナウンス部門は私と男性の2人だけだった。


 最初は、ここがどこか、どうしてここにいるのか分からなかった。でも、しばらく話しを聞いていると、テレビ局の入社式と正面に書いてあり、社長がようこそと挨拶を始めたので、新卒として入社式に参加していることはわかった。


 しかも、女子アナって、私とは最も縁遠いい職業じゃない。そんなことってあり得るの?


 でも、何よりも驚いたのは、私じゃなかったことなの。意味わからないわね。私なんだけど、顔もスタイルも全く別の女性になっていた。入社式が終わった後、すぐにトイレにいって確かめたんだけど、とびっきり美人で、痩せていてスタイルが良くて、女子アナというぐらいでとっても透き通った声。


 全く状況は分からなかったけど、いきなりテレビ局新人研修が始まった。職場見学ということでニュース番組の現場を通った時、私が乗っていた電車の衝突事故を報道していた。特に、先頭車両はめちゃくちゃで、その壁には、お煎餅のように潰された女性たちがいっぱいだったって。みたくないけど、あの中の1人が私なのね。


 これまでの私は死んじゃったんだと思う。それで、理由は不明だけど、安積 陽菜という女子アナの新人になっていた。でも、これってチャンスじゃない。こんなに魅力的な顔とスタイルなら、人生をやり直せる。


 そうはいっても、OJT中心の研修が始まり、先輩たちの指導は厳しかった。女子アナってヘラヘラしていればやり過ごせると思っていたら、漢字の読み方とかは当たり前として、何もかも否定され、いつも給湯室で泣いていた。


 でも、せっかくの人生のやり直しだから、挫けることなく、次の日には言われたことは完璧にこなすよう頑張ったの。それが認められて、バラエティ、スポーツとか、いろいろな番組に出れるようになったわ。


 仕事は大変だったけど、楽しいこともいっぱいあった。スポーツ番組に出てる時に、野球選手から合コンに誘われた時は、舞い上がっちゃった。周りは知っている有名選手ばかり。また、これまで経験したことがない、あのチヤホヤされるってやつ。なんか酔っ払って、朝起きたら、あの人気選手の横で寝てた。


 でも、彼には奥さんがいたから、それ以降は距離を置いたわ。そう、さすがに人の旦那さんに手を出しちゃまずいでしょ。彼からは、何度かDMが来たけど、奥様と充実した時間をお過ごしくださいねと丁寧にお断りしておいた。


 また、バラエティー番組とかにも出たけど、MCとか、全国放送の番組で可愛いとかいじってくれる。そんなことないぞーとかふざけて言っても、みんな大笑いしてくれる。本当に人気者という感じで楽しい。美人って、何かと得するものね。想像していたよりすごい。


 ところで、仕事は順調だったけど、この体になって変わったのは、なんか、タラタラする人を見るとイライラすること。仕事が厳しかったからかもしれないけど、昔だったら、いいじゃないのとおおらかに言えたことでも、許せなくて、厳しく言っちゃう。


 また、女子アナ同士で飲み会とかいくけど、そんな中で、上司や先輩の批判や、人の不幸話しとかが多くて、昔だったら嫌いだったけど、今は、逆にリードするぐらい話して、不満の吐口としている。なんでかな。痩せると、脳内で分泌する成分とか、何か変わるのかもしれない。


 軌道に乗ってきた時だった。いきなり、アナウンス部長に呼ばれた。私が学生の時に、キャバクラで働いていたと週刊誌に明日に出るからと告げられ、期限未定で自宅謹慎を言いつけられた。


 私は、もともと事故前のことは知らないこともあるんだけど、そんなことはしてないと思うので、間違いですと何度も言った。でも、写真とか証拠があって、週刊誌は止められないと言われた。


 その後、週刊誌の記事を契機にして、清楚系で売っていた私は、水商売アナとか言われて、毎日のように汚らしい女性とテレビで批判された。なんてことなの。せっかく人生をやり直そうと思ったのに。人生って、そんなに簡単じゃないのね。


 その後、会社からは、減給という処分があって、アナウンス部門から総務部に配属転換となり、社内の備品管理とかの業務に回された。そこで頑張ろうと思ったけど、みんなから汚い女って見られたり、あからさまに女子トイレで汚い女って言われたりした。


 そんななかで、会社にいることが辛くなって、会社に出社できなくなってしまったの。転職しようとしたんだけど、顔と週刊誌の記事は誰もが知っていて厳しかったわ。そこで、そこまでいうならと思って、会社辞めて、キャバクラで働くことにした。大胆な決断でしょう。


 キャバクラでは、もと女子アナとして人気は出た。また、キャバクラの世界も競争が厳しいのだろうけど、キャバクラの女性たちはワガママな人も多くて、テレビ局のアナウンス部での苦労を乗り越えてきた私は、目標設定をして日々努力していたら、どんどん成果は出てきた。


 特に、会社で働いていて、男性の苦労とかも見てきたので、おじさん達の悩み相談とかしていたら、結構、多くのお偉さんから指名をいただくまでにもなった。


 そんなことをして35歳になった頃、驚くべきことが起こったの。

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