みんなで人生二週目って?
一宮 沙耶
第1話 ぶちゃ子
ぶちゃ子、これは学生時代の私のあだ名。私は、ぶくぶく太っているし、目もひとえで、鼻の穴も上に向いているから、このあだ名に文句はないわ。むしろ、ドラム缶とか呼ばれるよりは愛嬌があると思っているし。
太るのは仕方がないわね。マヨラーだもの。ポテチにマヨネーズたっぷりつけて食べるのは週に2回以上。それだけじゃなくて、ポテチは1回に4袋ぐらいが普通。あと、スーパーで買ってきたマグロの切り身とかは、醤油にマヨネーズを入れて、トロになったと楽しん食べてる。とは言っても、トロって食べたことないんだけど。
高校の制服、スカートとかは大きいサイズでも足りずに、家で縫い直してやっと入るっていう感じ。ウェストの部分にはゴムを入れて伸ばせるようにするとか。みんな、笑ってるよね。
まだ20歳なんだけど、血糖値はかなりいっていて、もう糖尿病だからって薬も飲んでる。そんなんだから、男性からも声をかけられたことはない。まあ、仕方がないわ。私と付き合う理由は見当たらないもの。
そうは言っても、男性に告白したことはある。高校生の時、サッカー部でいつも輝いている人に憧れていて、いつも、遠くからサッカーの練習を見ていた。でも、私なんて見てくれないと思い、いつも、遠くから見ていただけだった。
それでも、気持ちを伝えなくちゃって、勇気を出して手紙に書いて、公園で待ち合わせをした。でも、結局3時間待ったけど来なかったわ。その数日後、学校で廊下を歩いていたら、彼は、教室で友達に、ぶちゃ子から告白されたけど、あんな女と付き合うの恥ずかしくて無理だと笑っていた。
少し傷ついたけど、やっぱりよね。しかたがないわ。期待するのが間違っていたのよ。私は、女性として見られていないんだもの。背伸びしすぎたのね。男性と付き合うなんて夢見ない方が楽に生きられる。毎日、美味しいものを食べていれば幸せ。
餓鬼という、いくら食べても飢えを満たすことができない鬼がいるらしいけど、私も餓鬼なんじゃないかしら。そんな話し、お母さんに話したら、他人のせいにするんじゃないわよと怒られてしまった。でも、お母さんだって太っているじゃない。これって遺伝子のせいだと思うけど。
食べたくなるのは止められない。その分、心は清らかでいようと思う。女子トークって、人の悪口ばっかり。私は、女性の中に入れてもらえていないのか、そもそも人間にすら思われていないのか、悪口とか言われたことないんだけど、人のことを貶めるなんてみにくいと思う。そんな人にはなりたくない。
私は、どうでもいいことが多いから、というより、マヨネーズかけたポテチを食べていれば幸せだから、人の悪口よりも、マンガとか、とっても素敵なストーリーねとか話しているのが好き。
そんな話しができる友達を見つけた。私と同じで、かなりぽっちゃりしていて、性格も穏やかなのは偶然なのかな。それは別として、その子との時間は、とっても楽しかった。
「ねえ、「恋空のゆくえ」の新刊読んだ?」
「読んだ、読んだ。隆って、いつも奥手だったけど、今回は勇気出したね。」
「そうそう。あの雨のシーン、ドキドキしちゃった。」
「ここまでくると、里美がどう出るかでクライマックスにまっしぐらだよね。」
「私、隆じゃなくて、幼馴染の悟と結ばれると思うんだけど。」
「それもありだね。どうなるか楽しみ。」
そんな私も就職の時期がきた。どうしてなのとびっくりされるみたいだけど、女性用インナーウェアの会社に決まった。もちろん、ぽっちゃりさん向けのランジェリー開発とかを期待していると言われている。そういうと、みんな納得したって。やっぱりね。
今日は入社式で、朝、満員電車に乗っていった。そして、別に、痴漢とかされたことないけど、なんとなく今日は女性専用の先頭車両に乗っていたの。日頃は、女性ばっかりの車両って、遠慮がないというか雰囲気悪いし、汗かいた私の肌が、横の女性の服に触れちゃったりするとひどい顔で睨まれたりするから避けているんだけど。でも、今日は、少し電車が遅れていて、ホームが混んでたから、先頭の方に押し出され、女性専用車両に乗ることになっただけ。
電車は遅れ、いつもより急いでいるように感じたんだけど、カーブに差し掛かった時、列車は傾き、レールから外れ、正面のビルに衝突してしまった。前からは壁が、後ろからは女性たちに押され潰され、息ができなくなった。
息ができないってこんなに苦しいのね。いきなりだったから、わからないまま、後ろからすごい力で壁に押し付けられ、目の前が真っ暗となった。そして、目を開いた時に、思いもよらない光景が広がっていたの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます