第63話「日本語」

「聞いてくれ、村上くん。昨日ちょっと気になってた映画をアマプラで観たんだけどさ」


 昼休み、サンドイッチを食べ終わった西森さんが紙パックのイチゴ牛乳のストローを咥えながら言う。


「まあ、古い映画だからか、字幕しかなかったんだけど。そしたらさ、オカマって言うか、オネエって言うか、女言葉のマッチョな男性が出てくるんだけどさ」


「何それ何の映画…」


「字幕で自分の事を「アタシ」って書いてる訳よ。でもセリフは英語でI think so too、つまり『私もそう思います』って言ってるんだけど字幕は『アタシもそう思います』な訳よ」


「あー。まあ、英語は自分の事は全部『I』だしね」


「そう!そこだよ村上くん!日本語なら一人称は沢山ある!私、俺、僕、アタシ、わっち、自分…言い方は様々だが沢山ある!でも英語だと『I』だけだ!つまりだよ、日本語ってのは世界で一番表現が豊かな言語なんじゃなかろうか!」


「あー。それはそうかも」


「よくアメリカ人とか外国人とかさ、オーバーリアクションに見えたりしない?アレは表現の少なさを身振り手振りで感情を乗せてフォローしてるんじゃないかな?」


「なるほどあり得そう。でもオネエ言葉とかはどう表現してたの?」


「何か発音とかでニュアンスを変えてるらしいよ。つまり英語圏で英語を喋る時はそのニュアンスを知っておかないとオネエに間違えられるよ村上くん!」


「大丈夫!僕、英語喋れないから!」 


「えっ」


 何だよ『えっ』って。いや普通に英語喋れないよ。



 今日の西森語録「日本語の表現の豊かさは世界一」


 結局何の映画観たんだ?西森さん…。

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