第35話「八百万の神」

「聞いてくれて、村上くん」


 味噌カツオニギリの包装をクシャッと丸め、ゴミ箱に捨てながら西森さんが言う。


「昨日、帰りの駅のホームで千円札を拾ったんだよ」


「え、ラッキーじゃん」


「いや、何となくそのまま駅員さんに届けたんだけどね」


「真面目だなあ、僕ならそのままポケットに入れちゃうかも」


「村上くんらしいな!しかしだよ、私も別に真面目なつもりはない。特に意識した訳じゃないんだが、何となく届けただけなんだが、『誰かに見られたら嫌だしな』と思ったんだよ。逆に、『真面目に届けるのを見られたら良い事あるかも』とも思った」


「あー、何かわかる」


「そこでふと思ったんだ。その見ているかも知れない『誰か』って誰だ?」


「えっ」


「周りには他に誰も居なかった。駅員さんに届けたけど割と離れた場所だった。つまりだよ、誰も居ないのに誰かに見られたら嫌だなと思った訳よ。何故そう思ったんだろうか?」


「あれじゃない?神様は見てる的な?」


「ソレだ!それだよ村上くん!いいかい?日本人はやれクリスマスだ、やれハロウィンだ、と浮かれるのに家には仏壇があったりする。最近では無宗教だとか言いながらハロウィンで仮装しクリスマスプレゼントを買ったりする!」


「確かに。うちも浄土真宗だけどクリスマスにはチキンも食べるな」


「でもだ、村上くん。これは宗教を軽んじてる訳じゃなかったんだよ。『悪い事をしたら神様が見てるかも知れない』とは誰もが一度は頭を過ぎるはずだ。だがその神は誰だ?少なくとも殆どの日本人はキリストでもイスラムでも仏陀でもない、よくわからないが居ると思ってる神だ!」


 確かに僕も子供の頃、親に言われた事あるな、神様が見てるとか。でも具体的に何の神か?は考えなかったな。


「思うにだ、日本人は昔から万物には何かしら神が宿るって考えるじゃないか。トイレの神様とかさ」


九十九神つくもがみとか八百万やおろずの神ってやつか!」


「それだ!つまり何らかの八百万の神様が見ているかも知れないって思ったんだよ!日本には至る場所に神が居るからな!駅だしたぶん電車の神様だな!」


「めっちゃ近代的な神様じゃん…」


「800万も居るんだ、どこにいても絶対見られちゃうな!」



 今日の西森語録「八百万の神はいつも見ている」

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