第19話「運が良い人」
「痛っ」
「ど、どうした村上くん!?」
「いや…あっ、歯が…」
ポロリと前歯が落ちる。西森さんがくれた堅焼き煎餅を休み時間に食べてたのだが。
「うわぁ!歯が!村上くんの歯が!?」
「落ち着いて、西森さん。これ差し歯だから」
気をつけて食べていたが、変な齧り方してしまったらしい。
「え、あ、そういう?」
「小学生の時にさ、夕方暗くなっても鬼ごっこしててさ…鉄棒があるのに気づかずに全力で走ってぶつかって…」
「話だけで痛いんだが!?」
「その時に前歯やっちゃったんだよね…」
「それは…運が良かったな」
「話聞いてた?西森さん!?」
「あ、いや、だってさ、歯に当たったから前歯で済んだけど、もし首なら死にかねない事故だぞ?」
確かに…人間全力で走って何かにぶつかれば充分骨折に至る。もし鉄棒の高さが首にあれば…うろ覚えだがあの時、角度的にはあり得た。うわ、何かゾッとする。
「…その発想はなかったよ西森さん…まさか死なずに済んで運が良いって捉えるとは」
「命が前歯一本で助かったなら絶対運が良いよ!」
「そう言えば西森さんは何かあってもいつもポジティブな方向から見るよね?僕からしたら不運じゃないか?って事もラッキーって捉える」
「あー。そりゃ運が悪いってのはあるよ?この前コンビニの一番クジも残り10枚でも欲しいの引けなかったしさ。でもでもさ、当たったヤツだってグッズには違いないし推しキャラ残ってたし?」
これだ。残りクジ10枚で欲しいA賞のフィギュアが当たらなかったのに推しキャラのハンカチがまだ残ってたからラッキーって思えるポジティブさ。よほどの事がなきゃ運が悪いって自覚しないんじゃないだろうか。
「同じ事柄に対して運が良い、悪いってのはホント考え方一つ、捉え方一つで全然見え方が違ってくるんだな。西森さんが運が良いのがよくわかった気がする」
「そりゃ私は運が良いよ!村上くんの様なオタク仲間に出会えたんだしさ!」
照れる様な事を平気で言うな。
「次からは煎餅はヘニャヘニャの柔らかいのにするよ!」
「何それ本当に煎餅!?」
今日は趣向を変えて村上語録。「運が良い人はポジティブな人」
僕だって西森さんに出会えたのは、相当運が良い。
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