第18話「本の虫」

「き、聞いてくれ!村上くん!!」


 昼食のサンドイッチを食べ終わり、小説を読んでいた西森さんがいつもと違って慌てた様子で叫ぶ。


「どうしたのさ」


「見てコレ!!!」


 文庫サイズの小説の一ページを開いて見せてくるが…。


「ここ!む、虫がいるっ」


 見ると小さな、1mmくらいの白っぽい虫がページの上を徘徊してる。


「あ!居なくなった!何処に行った!?」


「落ち着いて西森さん、多分他のページに潜り込んだんだよ」


 こんな取り乱す西森さんは新鮮だな、可愛らしい。


「な、な、何なんだアイツは!一体何者なんだ?」


「チャタテムシだね、茶を立てると書いてチャタテムシ。本の中にいるのは大体コナチャタテムシだね」


「あ、あ、危ない虫なのか?」


「基本的にそこまで害はないよ。製本でページを纏める糊を食べてるんだよ。茶せんでお茶を立てる音みたいに鳴くからチャタテムシらしいよ」


「鳴くの!?アイツ!」


「いや、種類が違うからどうだろう?ただ、湿度が高いジメジメを好むらしいから部屋を換気した方がいいね」


「あー…これ図書館で借りたヤツだから…。しかしこんな虫が居るんだな、まさに本の虫じゃないか。本の虫って本を読み耽る人でなく実在したんだな…」


「たまに誤って本を閉じたら潰れてページが汚れて嫌なんだよね…だから調べた事あるんだ」


「それで詳しいのか村上くんは。しかし本を読んでて虫が歩くとは…新しい体験だ」


「まあ、何処にでもいる虫らしいからね、よほどじゃなきゃ害にならないらしいから本を汚さないようにだけ注意」


「そうだな、気をつけよう。それにしても虫は凄いな、油断したら何処にでもいる!」


「地球上で一番種類も数も多い生き物らしいからね、虫は」


「虫…恐るべし」



 今日の西森語録「虫は油断したら何処にでもいる」


 うーん、語録って程じゃないか。でも電子書籍が増えてきて紙の本が無くなったら、この虫も見なくなるんだろなあ。『昔は本のページを虫が歩いてた』って言っても誰も信じない、そんな時代も来るかも知れない。

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