第8話「恋は災難」
「聞いてくれ…村上くん」
放課後、学校の帰り道の駅で西森さんがまた何か考えたらしい。田舎だから次の電車までまだ20分はある。いい退屈しのぎになりそうだ。
「実は隣のクラスの男子に告られてさ」
「!?」
思った展開と違った!まさかの恋愛相談!?
いや、確かに実は?西森さんは美人で可愛い。密かに男子からは人気がある。だが、今まで浮いた話が全く無かったのは超ディープなオタクであり、オタクゆえの独特の謎理論を展開するからだ。
「隣のクラスか、あまり知らないなぁ…どんな人なの?」
「わからんし知らん!」
「えっ」
「まあ、なんかよく分からないが山本?とか言う奴。サッカー部の奴らしいが…」
隣のクラスの山本と言えば親しくはないが僕でも知ってる。サッカー部のキャプテンで成績も上位、女子に絶大な人気がある。僕から見ても芸能人か?くらい綺麗で端正な顔立ちのイケメンだ。
「優良物件じゃん。んで?付き合う事にしたの?」
「断った!」
「ふうん?何で?」
「いいかい?村上くん。まず私は山本とかいう奴を知らない。喋った事もない。前から好きだったとか言われたが私は申し訳ないが顔も今日まで知らなかった。確かにイケメンなのは認めよう、普通の女子ならトキメクかもだ」
あ、イケメンなのは認めるんだ。
「内面重視なんて軽い言葉を使うのは好きじゃないが、さすがに話した事もない人はね…」
「あー…わからないでもない」
「でもだよ、村上くん!ここからがモヤってくるんだが」
「ん?」
「結果的に私は山本を振った。そしたら凄く山本は傷ついたみたいな顔する訳よ。涙目にもなっててさ。私も振った側だけど何かこう…モヤっとする訳よ…」
「それはまあ…失恋はねぇ」
「ここで問題。山本は傷ついた。私もモヤった。これ、誰が悪い?」
「えっ…だ、誰も悪くないような?」
「そう、そこだよ村上くん!人生は恐ろしい!私はただ村上くんとオタトークしていれば楽しい、幸せなんだ!何かを奪う訳でなく、誰かを傷つけるつもりは毛頭ない!なのにだよ村上くん!敢えて口悪く言わせて貰うならばだ、『勝手に私の事を好きになって勝手に傷ついている奴』がいる!何て恐ろしいんだ!」
「……まあ、勝手というか振ったしね」
「しかも私自身まで嫌な気分になる。今日まで接点の無かった男子に対して『傷つけてしまった』という、罪悪感ってヤツだ。降って湧いた災難だよ、誰も悪くないのに傷つくなんて」
まあ、西森さんがそう思うならいいけど山本のやり方が悪かったとは言えるんだが。イケメンでモテるからその辺がわからないんだろなぁ、山本も。一気に0まで距離詰めすぎ。まあ、こればかりはしょうがないね。上手く行かない恋愛はどうしても誰かが傷つく。
「じゃあさ、とりあえず気分転換に次の駅降りて本屋に行かない?」
「!…さすが村上くん!わかってるな?私を!」
帰り道、二人とも降りる駅じゃないけど大きな本屋がある。少し帰宅が遅くなってしまうが西森さんが落ち込んでるのは僕も悲しいし。何気に僕のオタトークが楽しい、幸せだと言われたのは凄く嬉しい。ならば僕はいつも通り、西森さんと話すだけだ。
今日の西森語録「誰も悪くなくても傷つくかも知れないのが恋愛」
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