3

 ……!


「エイラ、方向は?」


『十二時。正面対抗ヘッドオン


「……」


 となると、今から針路を変えても追いつかれる可能性が高い。


「エイラ、お前らの機体に武器は十分あるか?」


『ええ、あと8機くらいなら余裕で片付けられますよ』


 心なしか、エイラの口調は得意そうに聞こえる。


「上等だ」マスクの中の俺の口元がニヤリと歪んだ。「このまま直進。向こうからミサイルが飛んできたらECMと機動マニューバでかわす。敵とすれ違う直前でガン攻撃しろ」


『でも、空中戦では敵の後ろから攻撃するのがセオリーでは?』


「いいか、セオリーに囚われるばかりではダメだ。正面からの攻撃も決して全く当たらないわけじゃない。むしろそれで戦果が上がった例もあるんだ。覚えておけ」


『エイラ、学習しました! おっと、敵レーダー照準波です。ミサイル4発、命中まで14秒』


「ようし、ECM、エンゲージ!」


了解コピー!』


---


 戦闘は序盤の中距離ミサイルの撃ち合いから、格闘戦ドッグファイトへと様相を転じていた。中距離ミサイルで1機、すれ違いざまの銃撃で1機と敵の撃墜に成功した俺たちは、左に急旋回し敵の後方に向かいつつあった。


「エイラ、シナリオを3パターン予測しろ。勝利確率順に表示」


 激しいG(加速度)に耐えながら、俺はいつものようにエイラに指示を出す。予測プレディクションは昔からAIの得意分野の一つだ。

 エイラたちとこの機体のデータリンクは既に接続済み。俺とエイラなら、”暗号鍵はいつものアレ”でお互い通じる。これなら暗号化されていないアナログ無線でやり取りして、傍受されたとしても大丈夫だ。


『了解』


 3秒もかからず、俺のHMDS(ヘルメット・マウント・ディスプレイ・システム)に3つのシナリオが表示される。


『勝利確率はシナリオA、B、Cの順にそれぞれ92%、89%、75%です』と、エイラ。


「……」


 普通なら、確率の高いAかBを選ぶべきだろう。だが……俺のカンが、違うと言っている。それはなぜか。一瞬で閃いた。


「エイラ、パターンCだ。A,Bは反転した際に正面に太陽が来る。強烈な光と熱はお前らAIのセンサーにも悪影響があるだろう」


『さすが師匠! 太陽の位置までは考慮していませんでした。学習しました! パターンCでいきます!』


 次の瞬間。


 エイラたちは編隊を散開、二手に分かれて敵に機首を向ける。


---


 味方が複数なら、武器の尽きた俺でも十分戦いに参加することが出来る。


 ちょうどエイラ小隊の3番機、エイラ03が目の前だ。しかしその後ろには敵が1機張り付いている。俺はその敵機をレーダーで捕捉ロックオン。それを察した敵機はとたんに回避機動、エイラ03を狙うコースから離脱する。


『ありがとうございます! 師匠の師匠!』と、エイラ03。エイラと同じ声だった。


「ややこしいから礼は後だ。引き締めていけよタイトゥン・アップ


『了解!』


 そのまま俺はもう1機の敵をわざと飛び越え、前に出る。本来ならオーバーシュートと言って致命的な行為だ。にもかかわらず、俺は回避機動もせずにゆるく旋回を続ける。敵機はそのまま俺を追ってきた。


 かかったな。のらりくらりと敵の攻撃をかわし、俺はエイラ01――元々俺の相棒だったエイラの機体の鼻先を通り過ぎる。


 俺の意図は伝わったようだ。エイラが行動を開始する。アイボール&シューター戦法。俺が囮役アイボールで、攻撃シューターはエイラだ。


 さて、そろそろかな……


『エイラ01、ミサイル発射フォックス・ツー


 エイラのコールの1秒後。


 俺の真後ろの敵機が爆散する。ジャストなタイミングだった。


「よくやった、エイラ」


『ありがとうございます、師匠!』エイラの声は心底嬉しそうだった。『まさしく、攻撃の瞬間が最も脆弱、でしたね!』


 エイラとはいつも同じ機体に乗っていたので、こんな風に二機で組んで戦ったのは初めてだった。それなのにツーカーと言えるくらいに馴染んでいる。やはりコイツは、間違いなく俺の弟子なのだ。


---

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