番号104

 僕達は原爆型トマソンに向かったわけだけど、まずそのトマソンにたどり着けない。

 ネット上の地図では限界がある上に、


「再開発って言ってたなぁ」


 と、今更ながらに佐久間さんの言葉を思い出す。


「再開発が必要なほど、街がごちゃごちゃしてるってことなのよね」


 トマさんがため息をつきながら、身も蓋もないことを言う。

 僕は内心で同意しながらも。


「そ、それだけが原因ではないと思うけど……」


 と、駕籠市市民として形ばかりの抵抗をして見せた。

 まだ朝のうちなのに、平気で温度は上昇してゆく。同時に不快指数まで上昇していくのは、実質上迷ってしまっている事も大きいだろう。


 それでもスマホの表示でなんとか向かう方向だけは見失わないで済んでいる。

 それを目安に私道にしか思えなかった、狭い路地を抜けると――


「あ、これか」


 すぐにベージュ色の壁面に、セピア調の写真が貼り付いている光景が目に飛び込んできた。

 それは確かに見事なもので、思わず見蕩れそうになってしまう。


 セピア色の写真に見えたのは、もちろん写真のわけは無く――サイズが実物大――かつてこの場所に、古めかしい平屋の建物が建っていたことの名残を惜しんでいるようでもあった。


「隣は……ああ、何かの店なのね。雑貨屋?」


 セピアが貼り付いている建物は、トマさんの言うように何かしらの店舗らしい。

 シャッターが降りているのはまだ開店時間ではないからなのか、すでに店を畳んでいるのか。


 しかし、トマさんはこの原爆型トマソンを見ても感傷的にはならないらしい。

 トマソンが教えてくれる、平屋が建っていたと思われる場所は更地になっており、雑草もまばらに生えているだけ。


 トマさんはそんな更地に踏み込んで、何かを探しているようだ。

 いや”何か”もなにも無いな。遺言状だ。


 確かに問題の壁面には隠しようが無い。

 もっと近付いてみないと確実なことは言えないけど、壁面がダメなら平屋が建っていた更地ということになる。


「ねぇ、ちょっとここは“外れ”なのかも」


 出し抜けにトマさんが、このトマソンに最後通牒を突きつけた。

 その表情も沈んでいる。つまりは記憶を取り戻すことも出来ないということなのだろう。


 となれば――僕もこのトマソンに見切りをつけるしかない。


・この場所がトマソン巡りの二カ所目なら……。番号93へ


・階段が重なっているトマソンへ。番号97へ


・地下道のトマソンへ。番号67へ


・空中階段付き扉のトマソンへ。番号101へ

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