番号105

 まず驚いたのが卜部先輩だ。

 何か武道をやっている――という曖昧な噂だけは聞いていたけど、そんな曖昧な認識だけで千馬の手下を受け付けない力量があるのが見て取れる。


 麺棒みたいな木の棒で、手下を倒すわけではなく、伸びてくる手や足を叩くだけ。

 それだけで取り囲んでいる千馬の手下達を遠巻きにさせている。存在感が違うと言えば良いのだろうか。


 とにかく卜部先輩一人だけで、千馬の手下達を相手に出来そうな雰囲気。

 僕達は空き地の中央に固まって、なんとか捕まらないでいる。


 ただ……僕とトマさんが逃げ出すことは出来なかった。周りを囲まれているんだから、まずどこに足を踏み出せば良いのかもわからない。


 卜部先輩のおかげで、千馬の手下達が得意の力ずくが通用しない。そのため、どうしたってこういう形になる。取り囲まれた状態で拮抗状態だ。

 そしてこの形になったことで、やたらにわめいていた千馬の顔にニヤニヤ笑いが復活した。


「いい加減諦めろ! さっさと遺言状を掘り出せ!」


 ここに遺言状があるって思いこんでるな。

 それが有利なのか不利なのかもわからない。ただ掘り出す振りをするにしても、あまりにも無防備になる。


 しかしこれだけの騒ぎになってるのに、全然人が来ないな。ゴーストタウンみたいになってるようだ。かと言って、僕達の誰かがスマホ持ち出したら、向こうも遮二無二かかってくるだろう。


 英賀先輩のドローンはあっという間に石をぶつけられて壊れてしまったし。

 このまま膠着状態が続くのか? いや、僕達がスマホを取り出すまでもなく――


「何をビビってるんだ! 一斉にかかれよ!!」


 千馬が唾を飛ばして叫んだ。

 そうすると手下達の目の色が変わった。これは飛び込んでくる。


 全部の方向から一気にかかられては、卜部先輩でもどうしようもない。

 こうなったら僕も身体を張るしかない。何とかトマさんと部長は守らないと……


                 ◇


 所詮は多勢に無勢。その言葉の意味を実感することになってしまった。

 卜部先輩の奮闘もむなしく、部長と英賀先輩が捕まってしまっている。


 だから僕が何とかトマさんを守り切れたのかというと、それは違って、


「さぁ、これで諦めれるだろ。伯父さんの遺産目当てなんだろうが、とっとと諦めてさっさと掘り出せ!!」


 と、トマさんに遺言状をを差し出させようというサディスティックな考えで、あえてトマさんを狙わなかったらしい。

 しかし……そうか。駕籠屋さんの遺産がトマさん――友達の孫娘に渡そうとする可能性は全然あるだろうな。


 それで千馬はこんなにしつこかったんだ。

 でも、トマさんにはそんなつもりは無かった様に思う。


 記憶の有無あるなしじゃなくて、ただ純粋にトマソンを好きで。

 それはきっと、駕籠屋さんとの交流が大事で――


「何言ってるの!? そんな思いであたしは駕籠市ここにいるんじゃない!」


 トマさんが叫ぶ。


「記憶が無くなったって、あたしはわかる! トマソンは……そんなの関係ないから!!」

「な、何? き、記憶が……?」


 記憶が無いという言葉に驚いたのか。

 それとも、トマさんの気迫に押されたのか。


 とにかくチャンスだ!


・まずは人質を! 部長を――。番号88へ


・千馬に飛び掛かる! 番号77へ

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