番号102
とにかく近くまで来ているのだから、あとは連絡を取りあって合流を目指す。
大きな道を目指した方が良いんだろうけど、何もかも信頼できない状態なので、用心した方が良いだろう。
幸いと言うべきか、スマホでいくらでも細かに連絡できる。
何回目かの連絡で、付近の写真を送ってみた結果、
『あ、わかるわかる。見つけたぞ。ちょっと上見てみ』
と、英賀先輩から連絡が。
上?
反射的に見上げると、
「ドローンだ」
思わず呟いてしまった。
しかしこんな住宅街で……非常事態だしな。ドローンが目前まで降りてきて、今度はドローン越しに英賀先輩の声が聞こえてきた。
『そこから小さな公園見えるだろ? そこで待っててくれ。すぐに行ける』
公園……あ、あれか。
三角形でシーソーと砂場しかないみたいな小さな空き地だ。柵もないので車が突っ込んできそうで危険度はMAX。再開発は必要な区画に思えるけど……
トマさんも英賀先輩の声は聞こえていたのだろう。
足早に公園へと向かっていた。僕も追いかけると、反対側から部長を先頭に先輩達が家の隙間から姿を現した。
……そこ道じゃないよね?
とにかく合流出来たことを喜ぶべきだろう。
というか、僕泣きそうになってる。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」
「だ、大丈夫ですから。ちょっと気が緩んじゃって……」
部長が慌てて声を掛けてくれた。
僕はそれをなんとか誤魔化して、先輩達と情報交換。
何だか、ずっと同じことをしてるみたいな気もするけど大切なことだ。
それで判明したのは、やっぱり隠居所襲撃を指示していたのは佐久間さんで間違いないって事だった。
いや襲撃というか、佐久間さんの関係者が隠居所に勤めていて、とにかく脅してでもトマさんを隠居所から追い出せ――そういう指示が出ていたらしい。
つまり襲撃も見かけだけ。とにかく隠居所に籠もらせないでトマソン巡りを続けさせようとしていたようだ。
そうなると……
「僕達が会った佐久間さんもとにかくトマソン巡りは続けてくれって……」
「そうだね。そこは間違いないと思ったよ」
僕の言葉にトマさんも同意してくれた。
それを聞いた部長は首を傾げながら、推理を続ける。
「じゃあ……そこは本当なのね。じゃあ遺言状についても本当なのかしら?」
そこは……どうだろう?
トマさんのトマソンへの執着は本当だと思うけど。僕もそうやって首を捻っていると、今度は英賀先輩から声が上がった。
「……遺言状はともかく、佐久間がトマソンにこだわってるのは本当だと思う。この先に、問題の原爆型トマソンあることは間違いないから」
「え? それは本当ですか?」
英賀先輩の言葉に思わず声を上げてしまう。
隠居所襲撃が佐久間さんが黒幕だと知って、原爆型トマソンごと嘘だと思っていたんだけど、それも違うらしい。
佐久間さんの狙いは一体何だろう?
時間に追われていたことも本当っぽかったけど……
「マズい」
不意に卜部先輩が声を上げた。
緊迫した声につられて視線を追ってみると、その先には着崩した白スーツの男がいた。
病的に痩せていて、そのせいかとにかく目付きが悪い。
そしてその周囲には、明らかに真っ当な職業に就いていないような男達の群れ。
「おい、おまえら! 遺言状は見つかったか!?」
真ん中の白スーツが吠えた。
間違いないだろう。この男が千馬だ。
「逃げるわよ!」
部長がすかさず叫び、僕達は男たちが現れたのとは反対の方向に逃げ出した。
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