番号99
とにかく駕籠市市内は危ないということで、隣の市の山田駅方面に向かうことにする。
軍資金は……少しヤバイが、先にスマホで払えるか確認しておけば大丈夫だろう。
先に調べてみたら使えるネカフェもあるみたいだしな。
そう。僕達はまずネカフェに向かう。英賀先輩から貰ったUSBの中身をあらためるためにだ。
実は駕籠市にはネカフェというか、風俗関係の店が無い。
無い、というか僕はあるのかどうかを知らない。少なくとも数が少ないことは間違いないだろう。
それなら山田駅方面に向かった方が探す手間は省けるし、何よりこの時間だ。
駕籠市から脱出するための交通機関も利用しやすい、というわけだ。
そして狙い通り、路線バスを捕まえたわけだが――
とにかくそこで落ち着いてしまったことで僕は気付いてしまった。
改めてUSBの中を確かめる必要があるのか? と。
英賀先輩の言葉通りならUSBの中身はトマソン。それを僕達に託すってことは……トマソンを回れって事になるよな。
でもこの状態で、そんなことしてていいのだろうか?
英賀先輩がトマソンのデータを集めてたのは――恐らくは、落ち着いたらまたトマソン巡りをやろうというつもりだった気がする。
トマさんを励ますと言うよりは、これは多分部長を元気づけるためのような気がするし。
そこに隠居所への襲撃があって、英賀先輩も混乱した。
僕達も今まで、逃げ出した勢いに任せて何となくこういう流れになってしまったけど……
「ねぇ。そのUSBにどんなトマソンが入っていると思う?」
いや僕“達”ではないな。
トマさんはUSBの中を確かめるのに――トマソン巡りを再開することに積極的みたいだ。
隣に座るトマさんの輝く表情を見て……僕は何だか怖くなってしまった。
そうだった。トマさんは襲撃の前に隠居所を出ていこうとしてたんだ。
むしろ今の状況はトマさんにとってはうってつけ……でも何でだ?
どうしてそうなってしまう?
怖がったりとかはないんだろうか?
その時、路線バスが停留所で停まった。
僕だけが降りる――そんな選択肢が頭に浮かんできたが、当然それを選ぶわけにはいかない。
そう。
いかないんだ――
◇
それから僕達は無事ネカフェに辿り着いた。
そしてUSBの中を確認。
実はトマソンのデータじゃ無くて、何か具体的な指示が入っているのでは? とかも思ったけど、そんな事は無く。
でもトマソンのデータとしては、新しいものばかり。
トマさんは何だか興奮しているが、僕は睡魔に身を委ねてしまった。
逃げ出すように。現実から目をそらすように。
だから目が覚めたとき、トマさんの姿が見あたらなかった時も慌てると同時に、どこか安心している僕がいた。
いや、そんな場合では無いよな。
トマさんだけ抜け出して――
「あ、やっと起きた。昨日大変だったもんね」
トマさんが目の前に現れた。
同時に薫ってくるシャンプーの香り。そして濡れ髪。
シャワー使ってたのか。そんなトマさんの姿に僕は動揺してしまう。
とっさに握りしめていたスマホに目をおとし――
・先輩達からの連絡が無いか確認する。番号78へ
・昨日は寝落ちしたのでトマソンを再確認。番号85へ
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