番号96

「卜部先輩!」


 僕は声の限りに叫んで、卜部先輩の注意を階段へと向けた。

 卜部先輩の目が確かにこちらを見た。


「卜部!」


 そして先に反応したのは部長だった。

 卜部先輩の肩を叩く。


 次の瞬間、卜部先輩は持っていた木の棒を逆手に持ち替えると、そのまま階段にぶら下がっている男に向けて投げた。

 それは狙い過たず、見事にぶら下がっていた男の手に命中。


 元々、偶然に階段に掴まることが出来ただけだ。

 男は為す術も無く、そのまま落下。


 ようし、これなら――


「――遺言状がトマソンにあるわけないんですよ」


 その時、なにもかもを否定し台無しにしてしまうような声が響いた。

 さ、佐久間さん!?


 そう。声の主は佐久間さんだった。

 えっと……遺言状を探してくれと僕達に言って……ああ、でも隠居所襲撃は佐久間さんの指示で……でもそれは探させようとしてるからで……


 わからない。

 何もかもがわからない。


 それに、トマさんは確かに見つけたって……英賀先輩のドローンはずっと前から充電切れみたいで……


 誰も説明してくれそうも無い。

 そして、全てを知っていそうな佐久間さんの後からは、規律の取れた集団が。


 その集団は確実に僕の疑問に対して拒否しか返ってきそうに無い。

 いや、そもそも佐久間さんは僕なんか相手にするつもりもないんだろう。


「――千馬さん、これでもうおしまいです。観念してください」

「ぬっ! ぐ……」


 佐久間さんは千馬と対峙することで、この場の主導権を握っている。


 勝敗というものがあるのなら、この瞬間決着が付いたのだろう。


 ――そして僕達がただの観客に過ぎないってことも確定したんだ。


・番号119へ

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