番号86
僕がトマソン巡りを続けることに頷いてからは、本当に「これから先」の話になった。
基本的には佐久間さんの提案に頷くだけだったけど、一番に病院を手配してくれると言ってくれたことで、少し安心した。
トマさんのことを無下に扱うつもりではないらしい。
そんな風に判断が出来る佐久間さんが、それでも急いでいるのだから、よほど事態は逼迫しているとも言える。
そして佐久間さんは自分の財布を取り出して、ぱっと見ではわからない枚数の一万札を僕達に渡してきた。
「軍資金と言うことで。現金はとにかく便利ですから。以前、鶴城さんにも提供しようとしたんですけど、それは拒否されてしまったので……」
「それは何故?」
「私には何とも。十善さんとの思い出を巡るのに、そういう仕事的な要素が入るのを嫌がったのかも知れません」
トマさんを横目で確認してみるけど……やっぱり覚えて無いんだな。
ポーチの中に財布はあったんだっけ?
「ですが、現状では無理にでも受け取って貰います」
「あ、はいはい。僕はありがたいですよ。お預かりします」
これでタクシーも使い放題だしな。
そんな僕を見て、佐久間さんは小さく頷くと財布の中から何かのメモを取り出した。いや、メモじゃなくて写真?
「これ、最近発見されたトマソンです。原爆型トマソンと言われるものですが、こういう風に壁に隣接していた建物が写真のように焼き付いているんですね」
その写真を僕達に見せながら佐久間さんが解説する。
原爆型という名称は物騒だけど、強烈な光で壁に建物の影が焼き付いてる写真は教科書で見たことがある。
佐久間さんの見せてくれた写真は、確かにあの写真と似ていた。
「市の北部は今再開発が行われていて、古い建物を整理している間に見つかったのです。恐らくですが十善さんが話題にしていないはずはない、と思うんです」
「それは確かに」
説得力のある推論だった。トマさんも熱心に写真を見ている。
そんなトマさんに構わずに、佐久間さんは腕時計を見ながらいきなり立ち上がった。
「その裏に住所等、書いてありますので、ここも調査に加えてください。すいません。もう私はいかなくては――よろしくお願いします」
言うが早いが、佐久間さんは伝票を握りしめて行ってしまった。
本当に時間が無いみたいだ。
では……残された形の僕達はトマソン巡りを再開するしかないか。
とりあえず原爆型トマソンの住所をスマホで確認してみた。
「トマさん、さっきの原爆型も調べるトマソンに加えるよ。ええと……あ、ここからそんなにははなれてないんだ」
スマホの表示ではそう見えてしまう。
だけど、道は込み入ってるな。
「それで、残りは地下道のと、空中階段。そこに原爆型を加えて三カ所だね。急いでいるみたいだから出来れば一発で……というのは無理か」
何だか佐久間さんにプレッシャー掛けられた気もする。
だからと言って僕がトマさんにプレッシャーを掛けるのは良くないよな。
果たしてトマさんは、ずっと難しい表情のままだ。
ここは僕が選んだ方が良いのか? もう原爆型を候補に加えるって言ってしまっているから今更って言う気もするし。
それとも……
・軍資金も充実したし。ここは一番遠くの地下道のトマソンへ。番号25へ
・空中階段のトマソンもあまり離れてはいないな。番号28へ
・やはり新しく発見されたトマソンが怪しい気がする。そんなに離れてないし原爆型トマソンへ。番号36へ
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