番号84

 ぶら下がっている男の足にしがみ付こうとしても、男までには高さも距離もある。

 僕はほとんど無意識のまま、壁に向かって斜めに飛び上がった。


 それは他の男達の意表を突いたのだろう。

 抵抗もなく壁を蹴ることが出来た。今度はその反動を使って、階段にぶら下がっている男に向かう。


 三角飛び……っぽい動きになったと思う。

 いや、とにかく男の足にしがみつければ何でも良いんだ。


 そして僕は、見事にぶら下がっている男の腰にしがみつくことが出来た。


「は、離せ! 邪魔するな!!」

「邪魔しに来たんだよ!」


 恫喝に対して叫び返す。

 男は腰を捻って僕を振り落とそうとするけど――


 ガコン!!


 鈍い音が響く。

 途端に、僕と男の身体が大きく振り回された。


 階段がビルから外れた!?


 じゃ、じゃあ、トマさんは!?

 金属製の階段は一体式だったので、トマさんがいる場所も――!


 だけど僕はトマさんを心配することも許されなかった。

 ぶら下がっていた男が階段から落ちてしまって、僕はその下敷きになってしまったのだ。


「ぐぅ……!」


 息がつまる。

 呼吸できない。強かに背を打ち付けたらしい。


「――! ――!」


 仰向けに転がった僕には、トマさんが叫んでいる姿がよく見えた。

 多分僕の名を呼んでくれている。耳鳴りが酷くてよく聞こえないけれど。


 それよりもトマさんまで危なくしてしまった。

 今、トマさんは斜めになった階段の手すりにしがみ付いているけど……


「……てめぇ、よくもやりやがったな!」


 その時、僕とトマさんの間に男が割り込んで来た。

 多分、ぶら下がっていた男だ。僕に馬乗りになって殴りつけるつもりらしい。


 僕は覚悟を決めた。

 とにかく一発は仕方がない。喧嘩もしたことが無いので、どのぐらいの覚悟を決めれば良いのかすら見当も付かないけど。


 だけど、覚悟の決めようも無い事が起こった。


「やめろーーーー!!」


 トマさんが上から落ちてきたのだ。

 僕は馬乗りになっている男は無視して、トマさんを受け止めようと身をよじって手を伸ばした。


 だけど……


 トマさんは僕に馬乗りになっていた男と衝突した。

 男は弾かれたように体をそらして、僕の上から転がって離れてゆく。


 そしてその横には、トマさんが転がっていた。


「トマさん! トマさん!!」


 僕は身体を起こし必死なって、トマさんの名を呼ぶ。

 トマさんは二回目の落下だ。これで頭をぶつけていたら……!


「鶴城さん!!」


 その時、トマさんの本名を呼ぶ声。

 その声の主は――佐久間さん?


 いや、佐久間さんばかりでは無い。規律の取れた集団が千馬の手下達を拘束していっている。警察……なのだろうか?


 いや、そんな事よりもトマさんは……?


・番号120へ

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