番号81

 喫茶店から空中階段のトマソンまではさほどの距離はない。

 それに何より、空中階段トマソンまでの道のりは複雑ではないし、下調べもバッチリだ。

 

 住宅街とビジネス街の境目が曖昧になって、ポツンポツンと空き地がある区画。

 それっぽい専門用語がありそうだけど、そういった場所に空中階段のトマソンがあった。


 まだ結構距離があるのに、余裕で意味の無い全容を僕達に見せつけている。

 周囲が開けているのもトマソンとして重要なのかもしれない。


「改めて、一番おかしいね」

「同感」


 プルルルル……


 すると、僕達の会話に相槌を打つようにスマホが鳴った。

 表示されてる名前は……部長だ!


「もしもし!」


 僕は慌ててスマホに呼びかけた。


『ああよかった! 無事なのね? 電話に出れるんだから大丈夫よね?』


 向こうも僕に負けず慌てていた。

 やっぱり襲撃されたことで、もっと酷いことになっていたのだろうか?


 なんとかこっちが無事であることを伝えなくちゃ。


「こっちは、上手い具合に逃げられたみたいで……そうだ、佐久間さんに会いましたよ。トマソンのデータを――」

『佐久間ですって!?』


 いきなり部長が遮ってきた。

 それに呼び捨て? いきなりなんだ?


 そのあたりを聞いてみると、何と隠居所襲撃の指示を出していたのは佐久間さんだったというではないか。

 隠居所に佐久間さんの息がかかっている人がいたようだ。それが襲撃者を招き入れたらしい。


 そして目的は隠居所襲撃ではなくて――


「トマさんを隠居所から追い出すため?」

『そう。とにかくトマソン巡りを続けさせたかったみたい。それが目的』


 だとすると――


「あの~、実は佐久間さんに紹介されたトマソンあるんですけど、それ無視して別のトマソンに来てるんですよ」

『え? ちょっと待って。佐久間のお勧めを無視したのは良いとして、なんでトマソン巡り再開してるの?』


 そこはツッコまれるところだと思っていたから、予想の範囲内だ。

 僕は慌てず騒がず、こう答えた。


「僕がそうするべきだと思ったからです」

『そ、そうするべきって……』


 トマさんがそれを望んだから、とかそういう理由も思いついていたけど、究極的には、僕自身がトマソン巡りを続けたかったんだ。


 色々やめる理由を探していたけど、それだけ本当はやめたくなかったって事だ。

 僕もまたトマソンに惹かれていたのだから。


「それで部長、それにお二人も近くにおられるんでしょう? 今は空中階段のトマソンに向かっていますから部長達はこのビルに正面から入って、ドアがどうなっているのか確認して欲しいんです。英賀先輩ならわかるはずです」


 何しろ僕達にデータをくれた張本人だ。

 今も見えている空中階段はビルの壁に貼り付いたドアとセットだから、これだけでわかるはず。


『え? え~と、ちょっと待って……ああ、そう。わかるのね』

「じゃあ、お願いしますね」

『いや、そうじゃなくて……わかったわよ! あなたたちを探して近くまで来てるって英賀が言ってるし』


 ここは隠居所前の坂道を降りた辺りだからな。

 これは幸運だ。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 そして電話を切って、僕達はトマソンへ――


・番号100へ

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