番号80
どうやら部長はタクシーでその“お爺さま”に会いに行くつもりだったようだ。いや会いに行くどころか、そのお爺さまの家に押しかける計画らしい。
ただ一度に五人というのはタクシーでは無理があるし、結局路線バスと徒歩で以て、市の北側にある高級住宅街へと向かうことになった。
お爺さまの家が、そこにあるという。家というか「隠居所」なんて先輩が言っていたんだけど……どうやら冗談ではないらしい。
部長も説明不足だとはわかってくれていたようで、バスの中で僕とトマさんに改めて“お爺さま”について教えてくれた。
とにかく早めに隠居所に行きたかったようだ。
「お爺さまって言うのは、そのままよ。私の祖父の
そう言えば部長は駕籠大の理事一族の親類だって話を聞いたことがある。
僕は今まで理事長の名前すら知らなかったけど、特徴がありすぎる変わった「蔦葛」っていう姓が部長と共通していると知っていれば、すぐに「お爺さま」について思い至ったかもしれない。
「駕籠市の成立にも関わった人でね……ほら、トマさんって、この市のトマソン知ってる風だったんでしょ? で、まったく縁が無いわけじゃなさそうで――」
「はぁ」
部長の話は一体どこに向かうんだろう?
「――それで駕籠市にトマさんを監視する、おかしな連中がいるわけ。これはお爺さまも力を貸してくれるんじゃ無いかと思うのよ」
なるほど。確かに繋がっているように感じる。
つまりお爺さまは駕籠市において、顔役みたいな感じなのだろう。一介の学生ではどうしても手が回らない方面にも協力して貰えるかも。
「お爺さまは自分で『隠居した』って言っててね。だから、これから向かう先は『隠居所』なんて言われてるわけ。趣味で家建てる感じね」
おおう……それは確かにセレブっぽいな。
「私の家はごく普通だから、これから先危険があるとどうしようもないけど、隠居所なら……」
それっぽい警備がされてるんだろう。
……もしかして駕籠市ってヤバいのか?
「で、さっき返信が来たの。トマさんの本名を伝えたら『連れてきなさい』って。やっぱりと思う部分と、話が大きくなってしまったと言う後悔が一緒にあるわ」
「そ、その……ごめんなさい」
たまらず、と言うべきなのかトマさんが部長に謝った。
しかしこれは……トマさんが悪いのかどうかはわからないな。
お爺さまには確実に会えるみたいだし、その時話を聞いてみればもっとはっきりしたことがわかるだろう。
部長もその辺りは同じ考えなのか、首を横に振った。
「ううん。駕籠市の人間が迷惑かけている可能性の方が高いと思うのよ。お爺さまの返信もそんな感じだったし……ああそれで思い出した。トマさん、駕籠屋十善っていう名前で思い出せる事はない?」
その名を告げられたトマさんは身体を硬くした。
今まで見たことのない反応だ。
「駕籠屋……ジュウゼン……」
そして呆けたように、その名を到着繰り返した。
確実にトマさんの記憶に引っかかっているのだろう。このまま記憶が回復すれば良いんだけど……
◇
そして僕達は坂道を登り、隠居所と言われる建物に辿り着く。
緑の深い山肌に抱きかかえられるようにして、その建物はあった。和風な建物を想像していたけど、何だか洋風で四角い。
保養所、なんて言葉が浮かんで来るから、何か施設めいてはいるのだろう。
そして敷地の入り口にある門の前にはリンカーンをそのまま白髪にしたようなあごひげの持ち主の老人が立っていた。
紹介されなくてもわかる。
この人物がお爺さま、こと、蔦葛鵬麒その人だと。
恰幅の良い体型を着物で包み、それだけで十分迫力がある。
確かに顔役だと言われそうな雰囲気だ。
そしてそんな人物がわざわざ出迎えてくれているのである。
トマさん……かなりの重要人物?
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