番号79

 その後、問題なくタクシーは佐久間さんが手配したホテルの前に到着した。

 僕の印象と思い込みでしかないけど、中堅どころのビジネスホテルといった感じ。


 佐久間さんはフロントに掛け合って、部屋を取ってくれた。

 今更の話になるし、用心のためにトマさんと同じ部屋だ。それに金銭面でお世話になりすぎるのも……


 それにこの段階ではっきりしたことがある。

 佐久間さんは僕の手に万札を数枚握らせて「現金は必要になります」と言ってから、続けて、

 

「私はここで別れます。千馬さんへの牽制の必要もありますので」


 と宣言したのだから。


 やっぱり佐久間さんは明日の――さすがにこの時間からトマソン巡りは無茶すぎる――トマソン巡りには同行しないつもりであったらしい。


 やっぱりという諦めに似た気持ちになるのは、僕に不安があるからなんだろう。

 けれど、ここで引き返すことも出来ない。というか引き返し方がわからない。


 このホテルに留まっていれば良いのかもしれない……とも思うけど、トマさんがそれを許さないだろう。

 それに佐久間さんが同行しないとわかって、何だかトマさんは喜んでいるように見える。


 佐久間さんも同じように感じたのか、


「やはり、鶴城さんはあなたを信頼しているようだ。私が巻き込んだのに無責任な話ですが、よろしくお願いします」


 と、僕に向かってしっかりと頭を下げる。

 その姿に圧倒されて言葉を失っていると、そのまま佐久間さんはホテルを出て行ってしまった。


「うん、じゃあ明日から頑張ろう。回る順番ぐらいは決めておこうか」

「あ、ああ……そうだな」


 そして、すっかりやる気のトマさん。

 僕も気持ちを切り替えなければならないのだろう。


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