番号77

 取り立てて深い考えがあったわけでは無い。

 ただこういう喧嘩の時に、相手のリーダーを潰せっていうやり方が有効だって、少年漫画では何回も出てくる。


 それが影響してたんだろう。

 僕は遮二無二、千馬に突撃した。千馬が挑発のために僕達に近付いていた事も幸いしたのだろう。


 千馬の痩せた身体はあっけなく、僕に引き倒された。


「千馬さん!」

「てめぇ!!」


 手下達がわめくがこうなったら、千馬を離しちゃダメだ。

 僕は必死なって千馬を抑え込む。


「て! てめぇ……!」


 千馬も抵抗するけど、案外力が弱いな。

 これならずっと組み付いていられる。


「こっちも大丈夫だ」


 卜部先輩の声が聞こえる。

 僕は組み付いていてよく見えないけど、多分部長達を解放したんだろう。


「よくやったわ!」

「助かった」


 部長と英賀先輩が、近くに来た。

 同時にトマさんがしゃがんで僕の頬を撫でてくれた。


 ああ……擦りむいてたのか。

 意識した途端、傷に汗が染みる痛さを感じてしまった。


 だけど離すわけには行かない。

 卜部先輩の足が見える。周囲の手下たちの足も動きを止めている。


 さっきとは違う形の膠着状態なんだろう。

 ただ、さっきとは違って僕達が有利……そうか、これなら――


「れ、連絡を!」

「そ、そうか!」


 トマさんが僕と同時に気付いてくれた。この状態なら連絡できるってことに。

 部長が動く気配がする。これで蔦喝さんに連絡が行けば――


「――千馬さん! こんな大袈裟にしたら言い逃れは出来ませんよ」


 その時、誰かの声が聞こえる。

 いや誰か、なんて迷う必要は無い。さっき聞いた声だ。


 佐久間さん、なのだろう。

 どうしてこのタイミングで?


 囮にされていた?

 じゃあ、ここにも――原爆型トマソンに向かうのも佐久間さんの計算だったのか?


「まもなく警察が来ます。大人しく捕まってください。あなたたちもですよ。余罪がいくつあるんですか?」


 ただ確かなのは、佐久間さんは味方ということだ。

 この場に限って、ということかも知れないけど、このピンチは乗り越えられる……はず。


 ああ、サイレンの音が聞こえる――


・番号116へ

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