番号74
お互いに伝えなければならないことがあるので、自然と僕の部屋に腰を下ろすことになってしまった。
作り置きの麦茶が残っていたことは幸いと思うべきなのだろう。
めいめいにお茶と座布団を配って、トマさんはそれに加えてコンビニで手に入れたシュークリームなどのお菓子を占拠しているが問題ない。
主に説明するのは僕と佐久間さんで、まずは僕の番だな。
まず公園で倒れているトマさんを発見したところから説明を始め、そこから推理小説サークルの先輩達と駕籠市のトマソンを巡る調査に出かけたこと。
そこから卜部先輩の気づきから蔦葛さんの隠居所に匿って貰っていたが、その隠居所まで襲撃を受けたので、僕の部屋まで戻ってきたことを説明。
その間に、どうして彼女を「トマさん」と呼ぶことになったのか。そしてトマさんのトマソンへの執着振りを伝えた。
トマさんの前でそれを伝えるのに躊躇いはあったんだけど、避けては通れなかったし、トマさんはむしろ僕の説明を誇らしげに聞いていたから……多分、大丈夫なんだろう。
むしろそんなトマさんの様子が、佐久間さんの表情をさらに沈痛なものにした。
「これは……いくら謝っても済むことではない……」
と、本当にほとんど呻き声と同じようにしわがれた声を上げる佐久間さん。
それでも、僕達に説明はしなければならないという義務感が働いてくれたようだ。
正座の背筋をますます伸ばして、佐久間さんはこう切り出した。
「駕籠屋十善という人物はご存じですか?」
と。
当然、トマさんこと鶴城美穂さんは知っていないとおかしいのだが、自分の説明が記憶を蘇らせるきっかけになると考えてくれたのだろう。
僕に伝える必要もあると考えてのことか丁寧に説明してくれた。
大体のところは蔦葛さんに説明された内容だったけど、最近の駕籠屋さんとトマさんの交流についても佐久間さんは知っていた。
どうやら駕籠屋さん、トマさんと何を話せば良いのか? がわからなかったらしい。それで交流の入り口として、駕籠屋さんは駕籠市に大量にあるトマソンを話題にしたようだ。
そして、トマさんもそれに食いついた。それで二人の交流が始まったのだが――
「その……ト、じゃなくて鶴城さんを駕籠市に呼ぶとかは?」
「真剣に検討されておられましたが、千馬さんに知られると良くないことが起こると考えられていたようです」
なるほど、そういう事情があったのか。
相当な厄介者だな、千馬という奴。
僕が質問したことで、それがきっけけになったのだろう。
佐久間さんの説明が肝心なところに至った。
「十善さんがお亡くなりになりなったことはご存じなんですよね? ……それでその遺言状がどこにあるのか。それがわからないんです。急なことだったので……」
「遺言状?」
「はい。急にお亡くなりになったバタバタで後回しになっていたんですが、いざ確認しようとしても見当たらない。そこで残された手記、メモ等を調べてみると、どうやらこの街のトマソンに隠してあるのではないかと……」
そんな事が!?
僕が驚いていると、佐久間さんはさらに続ける。
「……となれば十善さんとトマソンを中心に交流があった鶴城さんが専門家ということに。そこで私は鶴城さんにトマソンの探索をお願いして――」
今の状況が出来上がったらしい。
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