番号73

 こうなるとやるしかあるまい。

 肩車を。目測だと、トマさんを肩車してさらに肩に立って貰った方が確実に思える。


 トマさんをまた空中階段を登らせることに、少し躊躇いはあった。

 けれどトマソンについては、トマさん中心に行動したい。その感情の方が僕にとっては優先された。


「トマさん。肩車でどう?」

「――その後、肩の上に立っても良いのなら」


 目測は一致しているし、息もあっているようだ。

 僕は喜んでしゃがんで、トマさんのすらりと伸びた足を肩の上に迎えた。


 ただ……しっかり固定するのは躊躇われるな。

 長めのキュロットとは言え、体温とか柔らかさとか。


「しっかり持ってよ。あたしも君の頭ちゃんと抱えるし」


 それは交換条件になっているのか? と思いながらも僕は覚悟を決めてトマさんの足をしっかり固定した。

 どのみちこうしないと、本当に危険だからな。


「では、立ち上がります」

「なんで敬語?」


 と、短いやり取りを終えて、僕は立ち上がった。

 思った異常に軽い。これ、口に出した方が良いのかな?


「あ、階段に正面を向くようにして」


 迷う僕には気づかずに、トマさんから指示。

 もっともなことだと、壁に向かって立ち上がっていた方向を修正。


「で、今度はあたしが立ち上がります」

「敬語で返された」


 と、義務的にツッコむとトマさんは身軽に僕の肩の上に立ち上がった。


「あ、これなら余裕余裕。あたしから登るわね」


 その声と同時に、僕の肩から重さが消えた。

 無事、階段に移動できたみたいだけど……僕も登るのか? 見上げるとトマさんがしゃがんで僕に向かって手を差し出している。


 これ、大丈夫なのかな?

 どうしたものか――


 プルルルル……


 タイミング良く、と言うべきかスマホが鳴った。

 僕が手を上げると、トマさんはそれだけで察してくれた立ち上がった。相手はもちろん部長だ。


『もしもし? こっちは廊下の内装変えて扉自体を無かったことにしてるみたい』


 お、仕事が早い。

 とはいえ、それはそうか、と納得の展開だ、空中に通じる――途中で切れる階段が付いているとはいえ――ドアが普通に使えるの危ないもんな。


「こっちは――」


 こちらの状況を伝えようとしたとき、その状況に大きな動きがあった。

 僕とトマさんを、つまり空中階段のトマソンを囲むようにして、二桁はいそうな男達が現れたからだ。


 その中央にいるのは、病的に痩せた白スーツの男。

 そのせいかどうかわからないけど、目付きもすこぶる付きで悪い。


「――男達に囲まれました」

『すぐ行く』


 電話中だったのが幸いだったというべきか。部長からは頼もしい声が返ってきた。

 えっと、それなら……


「あ、あの、トマさんだけは階段に登らせてるので……」

『それは簡単逃げられないわね……でもなんとかして』


 無茶な指示だが――


「了解です!」


 頑張るしか無いよな!


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